印象に残っているのは「ヒョンビンさんとのあのシーン」
――耳野郎を演じられて印象に残っているシーンはありますか?
「耳野郎には転機が2回あります。ひとつめは、ヒョンビンさん演じるジョンヒョクに、ジョンヒョクの兄を死に至らしめたことを告白するシーン。このシーンは、耳野郎がそれまで表現できなかった苦悩と懺悔、葛藤が一気に噴き出すシーンで、ジョンヒョクは兄の死の秘密を知って悲しみが押し寄せてくる。
ふたりとも苦痛を感じながら、悲しみに包まれる、韓国では『感情シーン』といわれる、感情をぶつけ合う場面でした。
ヒョンビンさんとはこのシーンの前に話は特にしなかったのですが、私が感情をこめている時にじっと待ってくれまして、そんな配慮がとてもありがたかったです。こんなことができるのは相手への信頼と共感があるからこそですから。
そして、ふたつめはセリを追いかけていったジョンヒョクを探すため、北朝鮮兵士4人と共に韓国に入国するシーンです。
それまで抑えられていた耳野郎の本能的に愉快な部分が、天真爛漫な北朝鮮兵士と行動することで呼び覚まされてどんどん変っていく。この韓国でのシーンの数々は忘れられません。
実は韓国には入国できないとも思っていたので、感慨ひとしおでもありました」
――韓国に入国できない?
「耳野郎はその前に死んでしまうだろうと思っていたんですよ(笑)。
台本は一度に6~8回(総16回)までが渡されるのですが、耳野郎は助けてくれた人を死に追いやったその苦しみから、なんとか恩を返そうとするだろう、弟のジョンヒョクのために命を投げうって真実を明らかにするだろう、そう思ったんです。
その過程でおそらく死んでしまうだろうと。ところが、意外にも生き延びた(笑)。作家に聞いたら最初から韓国に行かせるつもりだったと言われました」
2020.07.11(土)
文=菅野朋子
写真=Junwoo Cho