アジアにとどまらず、世界でファンを増やしている韓国ドラマ「愛の不時着」。人気の原動力の一つが、謎に包まれた北朝鮮の実状を細かく描写した点だ。
韓国ではテレビ放送当時、「北朝鮮を美化し扇動している」として、国家保安法違反で告発されたこともある一方、北朝鮮の対韓宣伝サイトに「虚偽と捏造でいっぱいの反共和国テレビ劇」と批判されたこともある。
いったい「愛の不時着」が描く北朝鮮社会は、どこまでリアルなのだろうか。
韓国で最も有名な北朝鮮専門のジャーナリスト、「中央日報」記者のイ・ヨンジョン氏に、ドラマをみたら疑問に思う「8つのポイント」について聞いた。(以下の記事では、ドラマの内容が述べられていますのでご注意ください)
Q1:ジョンヒョクの父、北朝鮮軍の総政治局長は どのくらい偉い?
ヒョンビン演じる主人公の北朝鮮の軍人ジョンヒョクは、北朝鮮軍の総政治局長の息子という設定だ。総政治局長とはどんなポストなのか?
「ジョンヒョクの父のいる軍の総政治局は、軍指揮官の人事権や検閲権を持っていて、その責任者である『総政治局長』は軍序列1位。
金正日総書記の時代に『先軍政治』を掲げて軍部の権力が強化された時には、当時の軍総政治局長だった趙明禄氏が金正日総書記に次ぐナンバー2とされたこともありました。
現在の金正恩時代の総政治局長は、平壌市労働党委員長出身の金秀吉氏が務めています。金正日時代に比べて地位が多少下がったものの、北朝鮮国内の5本の指に入る権力者であることは間違いありません」(イ記者、以下同)
北朝鮮に不時着した韓国有数の財閥の令嬢・セリ(ソン・イェジン)を匿うことになるジョンヒョクは権力者の子息でありながら、韓国国境に近い最前方警備隊の中隊長を務める大尉という設定だ。
「すべての北朝鮮の男性に国防の義務があります。服務する期間は10年。しかし、現実には党幹部の子どもは服務をしない場合が多い。
高級中学(高校に相当)の卒業後、軍を経験せずに大学に進学する特権階級の子どもたちは『直通生』と呼ばれます。
ただ、軍幹部の子どもは父親の跡を継ぐために軍隊に入隊しなければなりません。
総政治局長の息子であるジョンヒョクが、亡くなった兄の代わりに特級将校として前方勤務をしているという設定そのものには、まったく無理はありません。
ただ、総政治局長の年齢は普通70~80代なので、ジョンヒョクのような若い息子がいるケースは珍しいかもしれません」
2020.06.11(木)
文=金 敬哲