なぜ未プレイの私が こんなにも惹きつけられるのか
そしてなぜ、未プレイの私がこんなにもあつ森遺伝学に惹きつけられたのか。プレイどころか、攻略サイトを読むだけでなぜ「これは私の物語だ」とまで思ってしまったのか。
私は現在昆虫研究者ではなく、昆虫食の専門家としてラオスに拠点をおいています。
ラオスでは昆虫食文化がありながら、昆虫を養殖する技術がありません。そして同時に、子供の栄養不良が大きな社会問題となっている地域です。
NGOと連携し、ラオスで栄養を補給できる昆虫を求め、交配と最適化など、あつ森遺伝学とまではいきませんが試行錯誤を繰り返し、ようやくうまくいきはじめた矢先にラオス国境が閉鎖され、やむなく日本に帰ってきました。
そして日本の自宅で夜な夜なTwitterをしていたときに、あつ森遺伝学をみた私は「研究者にならなくても学んだことを社会に届ける方法があるんだ」と、強く勇気づけられたのです。
「最大限、世界中の多くの人に『私の物語』だと感じてもらう」
これが徹底したリサーチと、そのエッセンスをゲームへ実装した最大の理由だろうと推測します。
生物研究者にはおそらくならなかった、あつ森遺伝学の設計者がエンターテイメントという形を使ってこんなにもたくさんのプレイヤーに遺伝学を届けているかと思うと、「生物学など役に立たない」という偏見は無意味だとわかります。
かくして、私はあつ森を買うと決心したわけですが、ソフトどころかSwitch本体を持っていません。攻略本も品切れ、抽選販売にも外れ続けました。
この記事であつ森プレーヤーのみなさんが少しでも、あつ森遺伝学の「中の人」に思いを馳せてもらえたら嬉しいですが、同時に、ショーケースの前でトランペットを見つめる貧乏な少年のような気持ちで、世界中のプレイヤーに嫉妬しながらこの記事を書いています。
もうすこし事態が落ち着いてラオスに戻れる時、私はあつ森を手にできているでしょうか。
注……後日、著者の佐伯真二郎氏より「Nintendo Switch あつまれ どうぶつの森セット」の抽選販売当選の連絡がありました。
佐伯 真二郎(さえき しんじろう)
NPO法人食用昆虫科学研究会 理事長。適切な人に適切な虫をオススメする、蟲ソムリエをライフワークとし、昆虫学をベースにした未来の昆虫食開発のため、これまでに419種を茹でて味見、記録している。現在は保健NGO、ISAPHと共にラオスに滞在し、農村部の栄養不良と低所得を改善するため、食用昆虫の養殖・普及・教育の技術開発を担当。
※こちらの記事は、2020年5月31日(日)に公開されたものです。
記事提供:文春オンライン
2020.06.07(日)
文=佐伯真二郎