*記事内の見解はすべて著者によるものです。「あつまれどうぶつの森」発売元の任天堂の見解ではありません。
「あつまれ、どうぶつの森」(以下、「あつ森」)というゲームがすごいらしい、という噂が発売以来Twitterに流れてきます。
アゲハチョウ(モデルはキアゲハ)のモデリングが前翅と後翅が分かれて動いている、という つぶやきや、一級建築士が考察した博物館の建物のすごさ、とか。かはく研究員も興奮する化石の話など、今作はとにかく、細かいところまでの作り込みがすごい、との評判でした。
そんな中で、『害虫擬人化図鑑』の著者でゲーマーの小森雨太さんのツイートから、「あつ森内で栽培した花の表現型が遺伝学に忠実」ということを知り、衝撃を受けたのです。
攻略サイトの遺伝のパターンを読んでいるうちに、高校から院生までの遺伝学の思い出が蘇ってきました。
生物学者になって基礎研究がしたい、と考えていた高校時代、メンデル遺伝を楽しく勉強したことを覚えています。
私は大学院生までショウジョウバエの神経遺伝学を研究していましたが、基礎研究者への道を断念し、今は昆虫食の専門家としてラオスを拠点に、昆虫を養殖し食べる活動を続けてきました。
3月のラオス国境封鎖に伴い、日本に緊急帰国していたタイミングであつ森の遺伝の話が流れてきたのです。
しかし疑問が残ります。私のような遺伝学とともに青春を過ごした人間は世界中にほとんどいません。
万人向けゲームの世界中のプレーヤーにとって、一生のうちにまず触れることのないメンデル遺伝をなぜ、あえてゲーム内に実装したのか。
攻略サイトを眺めながら、ふとつぶやいたツイートがバズってしまい、私が原稿を書くことになりました。わたしは未プレイですし、もっと優秀なプロの専門家や遺伝学者がいらっしゃいますが、恐縮ですが分かる範囲で楽しく考察しようと思います。
あつ森の「花の交配」3つのナゾ
手始めに、ナゾを3つに整理しましょう。
1つ目のナゾは、「マイナーなメンデル遺伝をなぜゲーム内に実装したか」です。レアな花を実装したいだけだったら、単純な低確率のガチャのほうが設計が楽だったでしょう。
そして2つ目のナゾは、なぜメンデル遺伝をなぞりながら、最もレアである「青いバラ」はそこから外れる設定だったのか。
最後に3つ目のナゾ。2つの謎解きをもとに、どんな設計者がこのあつ森遺伝学を実装したか。
それでは1つ目のナゾ、「マイナーなメンデル遺伝をなぜゲーム内に実装したか」を考察していきましょう。
2020.06.07(日)
文=佐伯真二郎