「アプリを使い続ける」理由をどう設計するか
逆にいえば、このアプリの課題も見えてくる。
単純に自分を守ってくれるアプリではないのに自らアプリを入れなければいけない、というハードルだ。
シンガポールの「Trace Together」は、インストールが義務化されているわけではない。そのため、インストール率は国民のうち1割から1割5分程度と言われている。
もちろんそれでも相応のデータがとれるし傾向把握には大きく役立つが、「自分への感染の可能性を確実に教えてくれる」というわけにはいかない。利用する人を増やせば増やすほど精度は上がる。
「自衛官や警官から」という話があったのは、彼らの場合、業務としてアプリの利用を義務化することも可能だからだろう。個人向けの場合、国から強制するのは難しい。
そこで解決策はふたつある。
ひとつは、善意以上のインセンティブを用意することだ。平副大臣は、「国内IT企業の中には、アプリのインストールにポイント付与を考えているところもある」とコメントしている。これはいい作戦だ。
ふたつ目は、スマートフォンのOSに組み込み、利用のハードルを下げることだ。現状は「アプリ」であるがゆえに、インストールも必要で、動作してデータを集めるやり方にも制限がある。
しかしスマホOSに組み込まれて、利用者が機能を「オン」にするだけなら、もっと確実で簡単に、多くの人が使えるようになる。アップルとグーグルが提携して技術開発に取り組んでいるのはそのためだ。
現状、両社によるアプリは5月の提供が予定されており、OSへの組み込みはその後になる。
直近の対策、という意味では両社の対応を待つより独自にアプリを作ってしまった方がいいのだが(政府が先に動いているのはそのためだ)、新型コロナウイルス(COVID-19)との戦いの後も他の感染症との戦いが続く可能性を考えると、「OSが機能を持つ」のは重要なことだ。
2020.04.26(日)
文=西田 宗千佳