一番のお気に入りは?

 歌舞伎化に当たっては、舞台作品として楽しめるための工夫が随所に盛り込まれている。後半の物語に登場する道化もそのひとつ。

 この役は観客と物語世界とをつなぐ狂言回し的役割も担っていて、演劇ならではの楽しさだ。

 その衣裳はカラフルで歌舞伎の定式幕の色でもある柿色と萌葱色のツートンカラーの地に銀箔が施されている。

「トルメキアのヴ王のお気に入りですから、これも鱗文です。今回、デザインした衣裳のなかでも個人的に気に入っているのはこれなんです」

 文様として雲と唐草をあしらってあるが、クシャナのような刺繍ではない。身分が違うからだ。こうした違いが、キャラクターの人となりを知る手がかりともなるのだ。

「新調したての時はもっとピカピカでした。一度洗濯したところ落ち着いた感じになり、逆によかったと思っています」

 道化の衣裳からもわかるように、歌舞伎の衣裳とほとんど変わらないようなキャラクターがたくさん登場している。

「ナウシカ、クシャナ以外についてはかなり自由に考えていいということでしたので。デザイナーさんを立てるのではなく、自分が呼ばれた意味を思えば自然にそうなりました」

 一瞬にして衣裳が変わる「引き抜き」や「ぶっ返り」といった歌舞伎独特のテクニックも盛り込まれ、日本の古典的な図柄や素材があちこちにいかされている。

 歌舞伎という伝統芸能に携わるなかで蓄積されたノウハウが、新たなナウシカの世界を彩ったのだ。

 公演の記者会見が行われた時はまだまだ制作がスタートしたばかりで、解決すべき問題が山積していたはず。だが、菊之助さんの表情は明るく溌溂としていた。そして次のようなことを語っていた。

「歌舞伎を支えてくれている職人さんたちが、古典の力を信じ、一致団結して、目をキラキラさせながら制作に取り組んでいます」

 400年を超える歌舞伎の歴史のなかで、それは幾度となく繰り返されてきたことなのかもしれない。

 今回、クローズアップしたのは衣裳だが、各分野のスタッフがそれぞれに職人技を駆使し智恵を絞り、何より志高く取り組むことで歌舞伎を支えているのである。

 さまざまなアングルやアップ映像も見られるディレイビューイングでは、作品世界に対する理解が深まるとともに、そんな彼らの心意気にも出会えるに違いない。

新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』ディレイビューイング

前編・後編 各1週間限定上映
前編 2020年2月14日(金)~2月20日(木)
後編 2020年2月28日(金)~3月5日(木)
https://www.nausicaa-kabuki.com/

衣裳で振り返る
新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』

2020.02.11(火)
文=清水まり
撮影=末永裕樹