まもなくディレイビューイングとして上映される新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』。
全キャラクターの衣裳を手がけられた松竹衣裳の松本勇さんに、新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』誕生までのクリエイションについてうかがった。
》インタビュー前篇「スタッフ語る舞台裏」を読む
物語の重要人物、中村七之助さん演じるクシャナ
『風の谷のナウシカ』には主人公ナウシカの他に、もうひとり重要なキャラクターがいる。中村七之助さんが演じるトルメキア王国の皇女クシャナだ。
松本さんによれば、苦戦したナウシカに対してクシャナは「やりやすかった」という。
「クシャナの衣裳も、ナウシカ同様に出て来ただけでわかるものという方向性。ですが、もとのデザインを歌舞伎風にしても違和感がなかったため、ほとんど悩むことはありませんでした」
印象的なクシャナの鎧は特殊美術製作のスタッフによるもので、髪飾りなどは七之助さん自身が床山さんと相談して決めたという。
「トータルで考えなければいけませんけれど、それぞれの範疇を守ったうえで、あくまでも自分はデザイナーではなく衣裳という立場でいたいと思いました」
クシャナの衣裳で意識的に使われているのは、地と文様の三角形が交互に配置された鱗文。蛇の鱗に見立てた文様で、『京鹿子娘道成寺』などの歌舞伎舞踊でお馴染みのものだ。
「トルメキア王国の紋章が蛇であることから、クシャナだけでなくトルメキア軍の人物にも用いています。客席からはわからないと思いますが、クシャナの金箔の衣裳には龍の刺繍が入っているんです」
クシャナは颯爽と勇ましいばかりではない。ある場面では、優しげな風情の白い袖なしローブをまとった姿も披露している。このために新調したものかと思いきや、実はそうではないのだそうだ。
「あれは中国を題材にした舞踊で使ったものなんです」
さまざまな題材を演目に取り込んで上演してきた歌舞伎の懐の深さが、衣裳にも表れているのだ。
2020.02.11(火)
文=清水まり
撮影=末永裕樹