皇居の「石垣」がポイント!
江戸の美学、大奥の哀しみを秘める

 さて江戸城を眺めようと訪れると、東御苑の大嘗宮一般参観(2019年12月終了)で大混雑。行列に並び、聖域を感じさせる玉砂利をザクザク踏みしめ、坂下門をくぐり、コンクリートの宮殿や宮内庁庁舎を眺めながら歩き進みました。

 目の前に現れたのは異次元を思わせる蓮池濠の眺め。気持ちは一瞬にして江戸へとトリップします。

 門井さんによれば「お濠をはじめ、皇居の随所に遺る江戸時代の石垣の美しさは大きな見どころ」。家康は諸国の大名を巧みに競わせ、街や城を作り上げる「天下普請」を指揮しました。その普請の様子を石垣は伝えているのです。なかでも門井さんおすすめの石垣は、

「竹橋方面から眺めた北詰橋門(きたはねばしもん)の辺りの石垣が一番、美しいですね。朝と夕暮れでは光の当たり方で全然、見え方が違うんですよ。午後3時くらいはお濠に光が差し込み、とくに美しい。時を忘れ、眺めていただきたい」。

 実際に訪れてみると北詰橋門を挟む濠は高い石組が重なり、確かに美麗です。それでも、お堀端に立って見下ろせば、足がすくむほど淵が深く、高く急な石垣の険しさも際立ちます。その理由は、

「北詰橋門は天守閣に一番、近いので、堅い守りが必要でした。以前”もし江戸城を攻めるなら”というテーマのNHKの歴史番組に出演して、各分野の専門家の方々と討論したことがあります。そのとき僕が申し上げたのは、最も狭く、天守閣に近い北詰橋門から攻めるべし、という戦略です。

 そして、あくまで想像ですが、この門に繋がる大奥に暮らす女性たちが城から逃れるのを防ぐ役目も、北詰橋門は担っていたのではないでしょうか」。

 皇居には隅々にまで、いにしえの江戸の記憶が宿っています。石垣に積まれた石のひとつひとつにまで、心に迫る物語が。その由来を知れば知るほど、立ち合う風景は絵巻を解くように広がっていきます。

 では、門井さんに導かれながら、さらに奥深く、江戸城の高みへ。

» 皇居で人力車!? 後篇へ続く!(1/2公開予定)

門井慶喜(かどい よしのぶ)

1971年、群馬県生まれ。同志社大学文学部卒業。2003年「キッドナッパーズ」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。16年『家康、江戸を建てる』で直木賞候補に。16年『マジカル・ヒストリー・ツアー』で日本推理作家協会賞、18年『銀河鉄道の父』で直木賞受賞。20年2月、建築家・辰野金吾をモデルにした小説『東京、はじまる』を刊行予定。
»『家康、江戸を建てる』をAmazonで購入

2020.01.01(水)
文=上保雅美
撮影=志水 隆、佐藤 亘、文藝春秋