「戦争を知らない世代」だからこそ
「一層意識的に」
「戦争」というものは、日本の皇室がこれからも引き受けていかねばならないものだ。美智子さまは上皇さまと共に沖縄に心を寄せ、サイパンやフィリピンなどかつての激戦地を訪れた。その思いを引き継がれる証としてのグレー。そんなふうに感じたのだ。
ストッキングなど所詮、TPOに合わせて選ぶもの。そういうご指摘もあるはずだ。追悼式の雅子さまは、帽子も喪服もグレーだったからそれに合わせただけではないか、と。確かに令和になった翌月の6月8日、雅子さまは故・桂宮さまの墓所を参拝されている。その時の写真を見ると、ストッキングはグレーか黒か判然としない。喪服はグレーだったが帽子が黒だったので、黒かもしれないと思ったりもした。
いやいや、だけど。
追悼式を振り返ると、やはり雅子さまはグレーを意図的に選ばれた。そう思えてならない。陛下の「おことば」があったからだ。
陛下は、「深い反省」という言葉を使われた。「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ、ここに過去を顧み、深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い」と。上皇さまが戦後70年にあたる15年の式典から使われたのが、「深い反省」だった。安倍首相が決して触れない加害責任を、上皇さまが語る。そのような構図になっていた。陛下は、その構図ごと引き継がれた。
代替わり前、「戦争を知らない世代であるからこそ、風化させないよう一層意識的にならないといけない」という考えを陛下が示していた。追悼式の翌日、そう朝日新聞が報じていた。上皇さまも美智子さまも、小学生時代に疎開という体験をされている。お二人が持っていた戦争へのリアルな思いを、陛下も雅子さまも持っていない。だから意識しないと、我が事にできない。我が事とするために、意識的になる。
陛下の1年後に生まれた者として、よくわかる。陛下が「深い反省」を引き継ぐことが「意識的に」の表れなら、グレーのストッキングを引き継ぐことが、雅子さまの「意識的に」なのではないか。そう思えてならない。
2019.10.21(月)
文=矢部万紀子