郷ひろみの歌詞は「やり逃げ」?

矢野氏が触れているアソシエイションは、60年代後半に活躍したアメリカ西海岸のバンド。ソフトロックと呼ばれるジャンルの旗手とされ、日本では90年代の渋谷系の文脈において再評価を受けた。
矢野氏が触れているアソシエイションは、60年代後半に活躍したアメリカ西海岸のバンド。ソフトロックと呼ばれるジャンルの旗手とされ、日本では90年代の渋谷系の文脈において再評価を受けた。

矢野 最近だと、A.B.C-Zがアソシエイションの「Never My Love」をカバーしているんです。この曲は2019年4月に公開された『映画 少年たち』でも歌われているんです。昔、フォーリーブスもやっていたミュージカルの映画化ですね。

 けど、あの曲には因縁があるんですよね。もともと初代ジャニーズがアメリカのワーナーブラザーズと契約してあてがわれた曲なんだけど、アルバムがお蔵入りになって、アソシエイションが歌って全米1位の大ヒットになったという。そうして歴史の参照を求めるようにいろんな曲を配置しているところにも伝統を感じます。

――好きなグループやアーティストは? 近田さんはやっぱり永田英二さんですか?

近田 そうだね。もしフォーリーブスに永田があのままい続けていたら、ジャニーズ全体の流れも変わっていたんじゃないかなと、いまだに思うよ。

 あとはやっぱり郷ひろみだね。初期は本当にすごい曲が多いから。ジャニーズ時代の郷ひろみを超える曲っていまだにないんじゃないかと思うぐらい。筒美さんの曲もすごいし、岩谷時子、安井かずみの歌詞もとんでもないよ。女性の作詞家なのに、よくここまで男に都合のいいやり逃げみたいな詞を書けるものだっていう。

 《さあ初めて二人に別れの日が来た/握手をしようよ/君の涙は見たくない/僕のまつげがぬれるから/レインコートを脱ぐように かるい気持で別れよう》(「愛への出発」1973年 作詞/岩谷時子 作曲/筒美京平)。ひどいでしょ?(笑)

近田春夫&ハルヲフォンとして郷の「恋の弱味」をカバーしていたり、郷主演のドラマ「ムー一族」にレギュラー出演していたりと、近田氏と郷ひろみとの縁は意外と深い。
近田春夫&ハルヲフォンとして郷の「恋の弱味」をカバーしていたり、郷主演のドラマ「ムー一族」にレギュラー出演していたりと、近田氏と郷ひろみとの縁は意外と深い。

矢野 僕は最近だったらNEWSの増田(貴久)くんが好きです。ライブで見たら歌い方が多彩で、この人は芸達者だなとびっくりして。昔の人だとトシちゃんも好きですね。歌声を聴いているだけで元気になるんですよ。リアルタイムでは中居くんがずっと好きだし、やっぱり明るい人が好きですね。

近田 トシちゃんはほんとに明るいよね。ある種の大物感があるよ、あの人には。何か考えているのか、何も考えていないのかわからないけど。

矢野 彼みたいな華のある人がディスコナンバーを歌っていたりすると、音楽ってこういうのがいちばんいいな、と思うんです。

 音楽を通して歌い手が考えていることを受け取るのもいいけど、小説でも評論でも同じことをやっているわけで、音楽にしか求め得ないものは何か、とか考えると、パーッと気分が晴れて「今日は疲れたけど明日も頑張ろう」と思えるとか、そういうことだったりするんですよ、僕にとっては。

 コンサートでも文字どおり別世界に連れて行ってもらって、日常に帰ってくるみたいな。

2019.08.27(火)
構成=高岡洋詞
撮影=山元茂樹