ゴダールは記者会見の手法にも
革命を起こした!

 続いて現在公開中の『イメージの本』で、“スペシャル・パルムドール”という、すべてを超越した賞をもらった“歩くヌーヴェル・ヴァーグ”こと、ジャン=リュック・ゴダール。

 マダムアヤコは誕生日が同じなので、心密かにフランスの映画の父と慕っている。ちなみに古田新太と壇蜜も同じ12月3日生まれ。

 しかし、ゴダールとの2ショットは実際に会ったのではなく、スマホ画面の中。でもコラージュじゃないよ。

 『イメージの本』は膨大な過去の映像のコラージュだけれども、マダムアヤコはゴダールとiPhone越しにFaceTimeでしゃべっているのだ。

 『イメージの本』で4年ぶりにコンペに出品したゴダールだったが、足腰を痛めているということで、カンヌ入りが出来ず。

 コンペ出品者は公式記者会見をするのが決まりなのだが、そこでゴダールはスイスの自宅からFaceTime機能を使って質疑応答をするという、画期的な会見を行った。さすが、映画の革命児だ。

 彼の『気狂いピエロ』が2018年のカンヌのアイコンになっていたので、その前でゴダールが会見する姿を見たかった気もするが(同作のヒロインで、ゴダールの元妻アンナ・カリーナも久しぶりにカンヌで元気な姿を見せていた)、今まで誰もやらなかったことをやろうとするその気概は、今もヌーヴェル・ヴァーグ(新しい波)が続いていることを意味している。

 普段、カンヌの記者会見で手を挙げて司会者に指名してもらうのはなかなか難しいのだが、ここは早いもの勝ちで、プロデューサーのファブリスさんのiPhone前に並んだ順番ということになり、マダムアヤコは思い切って並んでみた。

 10番目に順番がきて、まずは「フランス語が苦手なので、英語で質問させてください」と言ったところ、「日本人もロシア人も、フランス人も英語で話し、自分の国の言葉で話さない。ひどいことです」とフランス語で返されてしまった。ぎゃふん。

 でも英語とフランス語の通訳さんしかいないしな、と困っていたら、なんと日本語で「そうですか……」と言ったのである。ゴダールが。

 ドキドキしながらも私も「こんにちは」となんとか日本語で返してみた。最近、あまり役者に演技をさせなくなっているので、「俳優の演技というものをもう信頼していないのか?」という質問をしたところ、「今まで協力してくれた俳優たちの気分を害するから、それには答えられないが、今の俳優には何か問題があるとは感じる。統治するという意味ではなく、政治の中にいるようだ」という趣旨の返事をしてくれた。

 そして最後にまた「そうですか」とつぶやいた。なんだか小津安二郎の映画のようだった。これだけでもカンヌに行った甲斐があった。

2019.05.13(月)
文・撮影=石津文子