ふたつの宗教文化が融合した
ムデハル様式にもの思う
最後に訪れたのは、アルバラシンから30分ほどのテルエル とアラゴンの州都であるサラゴサ。
今回は中世スペインの一大事であるレコンキスタを追いながらの訪問だったが、ラストはムデハル様式。
レコンキスタ後もイベリア半島に残ったイスラム教徒の建築様式と、キリスト教の建築様式とを融合したムデハル様式を堪能する。
一概には言い切れないことだが、レコンキスタを経てなおイスラム文化への尊重を保ったムデハル様式の建築物というのは、スゴいことだと思う。
“坊主憎けりゃ袈裟まで憎い”とはならなかったのか。レコンキスタ後、融合とはいえイスラム文化を受容する度量は大したことじゃなかろうか。
それほどイスラム文化が素晴らしかったからかもしれないし、それほどキリスト教徒に寛容さがあったからなのかもしれない。
正解は解明できないが、素晴らしい文化的融合であることだけは間違いない。テルエルに遺るムデハル様式の建築物を見て、そんなことを思った。
そして、アラゴンの州都であるサラゴサへ。この街には大聖堂が2つある。
スペインで布教活動をしていたサンティアゴの前に現れた、柱の上に立つ聖母マリアの伝説を起源とするピラール大聖堂。もうひとつは、ロマネスク様式~新古典様式までを集約させたサン・サルバドル大聖堂。通称「ラ・セオ」だ。
ピラール大聖堂には若きゴヤが手がけた天井画なども残り、もちろん見るべき大聖堂なのだが。今回は「ラ・セオ」。その後陣外壁と塔のムデハル様式に注目した。装飾の細やかさは、圧倒的だ。
旅の締めくくりに訪れたのは、サラゴサの「アルハフェリア宮殿」。この宮殿は11世紀、アラブの城として建てられた後、アラゴン王による改築がなされた。
そしてレコンキスタを完遂したカトリック両王、カスティーリャのイサベル女王とアラゴン王フェルナンド2世の居城にもなった宮殿だ。
1階にあるアラブの王室礼拝堂の装飾も見事なら、2階の玉座の間の格天井の壮麗さにも目を奪われる。
そしてここでは宗教裁判も行われたのだが、少なくともイスラム建築の一部を壊すことなく遺している。
アンダルシアではなく、北スペインのアラゴンで、これほどのイスラム建築を目にすることの驚き。この宮殿の細工、装飾はグラナダの「アルハンブラ宮殿」のモデルになったといわれる。
Column
トラベルライターの旅のデジカメ虫干しノート
大都会から秘境まで、世界中を旅してきた女性トラベルライターたちが、デジカメのメモリーの奥に眠らせたまま未公開だった小ネタをお蔵出し。地球は驚きと笑いに満ちている!
2019.04.30(火)
文・撮影=大沢さつき