書くことで心が整理される

 ぼくは子どものころから劣等感のかたまりで、生きづらく、その原因をつきとめるのに、小説、エッセイ、精神分析の本などに力を借りてきました。

 いろんな失敗を重ね、学び、世の中をようやく肯定できるようになったのは、30代に入ってから。普通の人の10年遅れで成長してきた感じです。

 「読む」に加えて「書く」という作業も役に立っています。

 雑誌の連載で原稿を構築していくと、頭の中が自然と整理される。書くということは日常を記録していくことでもあるので同様のシチュエーションに出くわしたときに対応しやすくなり、悩む時間が短くなりました。

 文章の構成は漫才を書くのと同じ。弱いボケから入り、話の濃淡を次第に濃くしていくという流れです。

 『ナナメの夕暮れ』は、36歳から今年の春までの約3年間に書いたエッセイです。

 若くもなく、熟練でもなく、打算やずる賢さを覚えておじさんへの潮目を渡っているような、ヒジョーに中途半端な時期に綴ったものです。

 例えばベストセラーの『嫌われる勇気』とかって、柔道の茶帯が黒帯になる感じで、すでに嫌われなく生きていける人が読む本じゃないですか。

 ぼくみたいに白帯にもなれず、体育の授業を仮病して休んで見学しているような人たちにも共感してもらえる一冊になればなあと……。

 オタク度でいうと本より音楽のほうが濃いですね。じつは15歳からゴリゴリのヒップホップ好きなんです。真の感情がむき出しになったラップが、腐りかけた心に何度も命を吹き込んでくれました。

 最近、癒されるのはバンド「クリーピーナッツ」の曲。でも、ラップ好きって言うと意外すぎてひかれそうなので、あまり公言しないようにしているんですけどね。

2018.10.14(日)
Photographs=Asami Enomoto
Styling=Yukio Fukuda
Hair&make-up=Masae Kobayashi(G・FORCE)

CREA 2018年11月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

101人の本と音楽とコーヒー。

CREA 2018年11月号

人生をちょっと自由にする、心の「スイッチ」
101人の本と音楽とコーヒー。

定価780円

慌ただしい毎日に、ちょっとひと休み。本と音楽とコーヒーを愛する101人に、大切な1冊、1曲、1杯を教えてもらいました。ちょっとだけ自由な気持ちになれたり、自分らしくいられるような、皆さんの心の「スイッチ」をご紹介します。