◆私の愛する香港スター

ディーン・セキを知っていますか?

 香港映画といっても、お洒落なアート系映画好きな方には本当にごめんなさいのページです(笑)。今回は、ディーン・セキとオススメの出演作についてです。

ディーン・セキ(Dean Shek)/石天

1950年中国北京生まれ、幼少の頃に家族で香港に移住。中学卒業後ショウ・ブラザースの南国実験劇団に入る。その後ショウ・ブラザースと俳優の専属契約を結び『追魂鏢』(68)でデビュー、『小煞星』(70)、『憤怒青年』(73)など多数の作品に出演。ショウ・ブラザースを離れたあとは『Mr.Boo! ギャンブル大将』(74)などに出演。ジャッキー・チェンの『スネーキーモンキー 蛇拳』(77)、『ドランクモンキー 酔拳』(78)などのコメディー路線カンフー映画で人気コメディー俳優に。80年、新藝城電影公司(シネマ・シティ)を設立し、『滑稽時代』(80)、『真実の愛』(81)などに主演。またプロデューサー業でも手腕を発揮し、『悪漢探偵』(82)が香港映画史上大ヒットの興収記録を樹立、以後もヒット作を量産する。俳優としての仕事は『レイド』(91)で一段落。その翌年にプロデュース作品が公開され、映画界を引退、実業家に転身。

 今回は、特にお気に入りのディーン・セキ出演3作品をご紹介します。


#01
『燃えよデブゴン2 正義への招待拳』
(原題『鹹魚番生』)
●80年製作/日本未公開

 賞金目当てのヒョー・ロリン(ディーン・セキ)と貧しい者を助ける正義の義賊、一枝花(ウー・マ)に憧れる偽の一枝花、プー・チャン(サモ・ハン・キンポー)が本物を探しに出るものの、憧れのヒーロー、一枝花は追手の殺し屋におびえて暮らすだけの弱々しい老人に落ちぶれ果てており……。

 カール・マッカ監督・出演、レイモンド・ウォン脚本で心強い仲間とガッチリ組んでいるからか、お得意の顔芸といい、ディーン・セキの良さが前面に出ております。

 落ちぶれ果てた一枝花を鍛え直し殺し屋と死闘を繰り広げるラストでは、弱そうなのにかなりの身体能力で派手に転がり回り、最終的にフラフラになって人形を人だと思って闘います(笑)。

 サモ・ハンの強烈な女装(笑)や超絶アクションも冴えわたりますが、ディーン・セキも負けじとコメディー俳優の本領発揮です!

#02
『カンニング・モンキー 天中拳』
(原題『一招半式闖江湖』)
78年製作/83年日本公開

 何をやっても半人前の青年、江(ジャッキー・チェン)が秘薬「活人丸」「反魂丹」をめぐって悪党の争いに巻き込まれながら次第に一人前のカンフー使いに成長、最後はバラバラに散らばった武術書を拾い読みしながら悪党を倒していきます。

 ディーン・セキの役どころは、ときどきフラリと現れては「ツッパリハイスクール」「一本でも人参」「友達の輪」など珍妙な技をジャッキーに伝授していく謎の男、屁っこき風太郎(笑)。

 しかし実はこの男が師匠の一番弟子と分かるあたりから、長髪で汚い格好で怪しさ全開だった屁っこき風太郎も俄然かっこよく見えてきます!

 最後の悪党を一網打尽にするシーンではジャッキーとのコンビネーションもバッチリの大活躍! ほかのジャッキー作品にも多数出演しているディーン・セキですが、おなじみの意地悪な師範代役よりもこの役が一番良いのではないでしょうか。

#03
『男たちの挽歌II』
(原題『英雄本色II』)
87年製作/89年日本公開

 ツイ・ハーク製作、ジョン・ウー監督のコンビで大ヒットした香港ノワール映画の続編です。

 服役中のホー(ティ・ロン)は偽札偽造組織の撲滅のため、10年前に組織から引退したかつての師、ルン(ディーン・セキ)の内偵に協力することになるが、警官で弟のキット(レスリー・チャン)も同時期に組織に潜入捜査しており……。

 ルンは組織から足を洗いカタギとして生きていこうとしているだけなのに、部下のコーに裏切られ、娘を殺され、避難先のニューヨークではコーの雇った殺し屋に教会を銃撃され、友人の神父も死亡、拘束衣を着せられ精神病院に収容され……と散々です。

 キットが殉職し、復讐に燃えるホー、ケン、ルンの3人が前作をはるかに超える夥しい量の銃弾、手榴弾、血しぶきの戦いになだれこんで行き、派手にドンパチします。この作品では、ディーン・セキもお得意の顔芸やコメディー演技は完全封印です!


 比較的有名な3作品をご紹介しましたが、そのほか、『香港スワット 野獣たちの陰謀』(86)でのサングラスのあやしげな鬼教官役でも抜群の存在感を発揮していますし、往年の喜劇王チャップリンにオマージュを捧げた、シネマ・シティ第一作『滑稽時代』(80)では、ホームレスに扮したディーン・セキが驚異的なパントマイムを繰り広げます。

 シネマ・シティはディーン・セキ、カール・マッカ、レイモンド・ウォン、ツイ・ハーク、エリック・ツァン、テディ・ロビン、ナンサン・シーなど、なんでもこなせる才人集団でもありました。会社自体はその後さまざまな要因で終息しますが、その現代的で新しい作風は香港映画に新しい流れを作るきっかけにもなりました。

 もう映画には二度と出ないのかと思われたディーン・セキですが、なんと引退からかなりの年数が経ってから、サモ・ハンの『おじいちゃんはデブゴン』(2016)にカール・マッカ、ツイ・ハークと揃って出演!

 海外版のDVDが発売されたときは、早速取り寄せて観ていましたが、その後日本でも遅れて公開が決まり、新宿武蔵野館に走りました(笑)。また新しい映画で姿をお見かけしたいものです!

2018.10.04(木)
文・撮影=伊藤修子
撮影=佐藤 亘