◆鮨 なんば 日比谷[日比谷]
「東京ミッドタウン日比谷」で
さらなる鮨の高みを目指す名店
休日の日比谷は多くの人でにぎわっていた。今年3月に華やかにオープンした「東京ミッドタウン日比谷」の前は、ことさらまっすぐ歩くことができないくらいの人でごったがえしていた。
多くのレストランが軒を連ねる3階の、少し奥まった一角に黒い引き戸がある。入り口には「ご予約のお客様で満席となっております」との立て札。店内を見ることはできない。ときおり不思議そうに立ち止まって立て札を眺める人もいる。
予約困難店として知られた阿佐ヶ谷の「鮨 なんば」が、「鮨 なんば 日比谷」として、「東京ミッドタウン日比谷」内に2号店をオープンさせたのだ。従来の店舗をお弟子さんに任せ、大将の難波英史さんはさらなる高みを目指し、新たな挑戦を始めた。
引き戸を開けると衝立があり、その奥に檜の一枚板のカウンターがある。サイズが大きいので、ビル中央の吹き抜けから20人がかりで運び上げたのだという。席数はカウンター8席のみ。カウンター正面の壁の右手には、味わい深い平皿が額装されて飾ってある。美食家としても知られる北大路魯山人の作品だ。
最初に出されたのは秋田県のじゅんさい入り赤あさりのすまし汁。刺激を与えられた胃袋が一気に動き出した。
続いてマコガレイの刺身。三陸のカレイは水っぽいといわれるが、その日のうちは甘みがあって美味しくいただけるのだという。
神奈川県は佐島のタコ煮は、日本酒で2時間煮てあり驚くほどやわらかい。
同じ皿に寄り添うのは宮城の蒸し蝦夷アワビ。ゆっくりと噛んでいると甘みが出てくるので飲み込むのが惜しくなる。
北海道西岸増毛町のボタン海老の刺身には、焼いた殻を砕いて混ぜた海老味噌を載せて。パンチの利いた食感とともに殻の香ばしさが鼻腔を抜けていく。根室のキンキは白醬油のスープで。隠し味のみりんの微かな甘みが味をまとめている。
同じく根室のイワシはガリとミョウガとともに海苔巻で。薬味で脂の載ったイワシをさっぱりといただける。トリガイの肝にはウニの塩漬けが載り、とろけるようなあん肝、ふわりと焼きあげた長崎の穴子と続く。おつまみの締めは玉ネギの小さな澄まし汁だ。
2018.09.15(土)
文・撮影=たかせ藍沙