Vol.020 Copy Me|アンビシャス・ラヴァーズ

古今のベストセラーを融合させてみる

発売中のCREA1月号およびCREA Traveller冬号には、グーテンベルクの発明した印刷技術が活用されている。

 こんにちは。無造作紳士こと、CREA WEB編集長のヤングです。

この連載もしばらく間が空いた。その間、俺は編集者という仕事に見切りを付け、岡山理科大学獣医学部合格を目指して野田クルゼに通い受験勉強にいそしんでいたとか何とか気の利いたことでも言いたいところだが、実情は、ホワイトボードに打ち合わせと記しながら連日ガストのハッピーアワーで生ビールやハイボールを飲みつつ女性誌公式サイトという業務に一切関係のない夕刊フジと日刊ゲンダイに目を通すという暮らしを続けていたら仕事がまったく進まなかっただけのことである。40歳を超えると何だか時間が経つのが速いよ。

これがガストのハッピーアワーだ! 俺が年金生活者となる20年後まで残っていてほしいシステムである。

 ……ということが露見し、何でもいいから会社の利益につながることをやれという上役からの厳しい視線をひしひしと感じる今日この頃なので、ベストセラーの企画でもひねり出すことにした。

 しかし、オリジナリティという言葉は俺の辞書にはない。よそ様のヒット企画から学ぶことにしよう。

2017年6月に発売された『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)は累計15万部を突破。12月には、続篇として『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら 青のりMAX』も発売された。

 えー、今年話題になった本というと『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』がある。神田桂一、菊池良の両氏が、太宰治、村上春樹、ドストエフスキー、シェイクスピアなど、古今東西の文体を模写し、カップ焼きそばの作り方を説明した一冊である。面白い。が、そのまま真似しても二番煎じにしかならない。ダメだろう。

 ツイストが必要だ。もう一冊、今度は少し古いベストセラーをヒントにしよう。でも、ぼくはあんまりながいごほんをよむとおねむになっちゃうのでみじかいのがいいなあ。

 ……ということで、決定しました。「一杯のかけそば」です。

 『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』と「一杯のかけそば」をかけ合わせ、『もし文豪たちが「一杯のかけそば」を書いたら』なる単行本を世に送れという天啓が降りてきた。ちょうど今日は大晦日だし、いいのではないか。

 と、その前に、「一杯のかけそば」に関する解説が必要だろう。「一杯のかけそば」は、1988年に刊行された『栗良平作品集2 一杯のかけそば・ケン坊とサンタクロース』に収録されている童話である。あらすじは以下の通り。

『栗良平作品集2 一杯のかけそば・ケン坊とサンタクロース』(栗っ子の会)。こんな大ベストセラー、古本屋何軒か回れば見つかるだろうと多寡をくくっていたが、甘かった。結局、アマゾンのマーケットプレイスで坂戸の古書店から1円で手に入れた。

 1972年12月31日の夜、札幌の「北海亭」というそば屋に、息子2人を連れた見すぼらしい身なりの女性がやってくる。母子は3人で一杯のかけそばを「おいしいね」と言いながら口にする。実は主人の好意で、このかけそばには1.5人前の量が入っていた。彼らは事故で父親を失い、大晦日に亡父が好きだった北海亭のかけそばを食べることこそが一年に一度の贅沢だったのだ。その後の数年間、大晦日には決まってこの母子が北海亭の暖簾をくぐった。が、ある年から彼らは姿を現さなくなってしまった。それでも、そば屋の夫婦は母子3人を待ち続けた。そして十数年が経った12月31日、苦学の末に医師と銀行員になった兄弟が、母を連れて北海亭に戻ってきた……。

 もう、こうやってあらすじをタイプしているだけで涙がにじんでPCの画面がぼやけているわけだが、俺もまあ年末でいろいろと忙しく、この本を読み直したのは通勤電車の中であった。想像してみてほしい。2017年の今、東京メトロ南北線の車内で吊り革を握りながら大判本である「一杯のかけそば」を当たり前のような顔して読んでいる46歳の中年男の姿を。かなり異様な光景である。

 さあ、次のページから、文豪たちが書いた「一杯のかけそば」のシミュレーションが始まるよ!

2017.12.31(日)
文・撮影=ヤング
写真=文藝春秋