小さきものに真摯に目を向ける
「写真映え」、つまりは写真に撮るとよく映えるものが、この世にはたしかに存在する。
たとえば揺れるもの、小さくてたくさんあるもの、反射するもの、透き通るものなんかが真っ先に挙げられる。具体的なものに当てはめるならカーテン、樹木の葉群れ、よく手入れされた艶のある髪、水面のある光景や磨き上げられた車のボディ、窓ガラスやワイングラス、薄手の柔らかい布地……といったところ。
それらをうまく取り入れると、画面はいきなり輝き出す。おそらくは、生の蠢きみたいなものを感じるからだ。写真にかぎらず、人はなんらかの形で「生命感」を受け取ったとき、歓びを味わえる。自身で写真を撮る際は、揺れるカーテンをさりげなく入れ込んだりすれば、出来が格段に上がること請け合い。
静岡県にあるIZU PHOTO MUSEUMで、テリ・ワイフェンバックの個展が始まった。米国ニューヨーク市生まれの写真家で、植物や昆虫など自然界の小さな存在に目を向け作品をつくってきた。写真家の川内倫子と交流があり、二人展も開いていると言えば、大まかな作品の雰囲気がつかめるかもしれない。
彼女が生み出す画面は、まさに写真映えするものばかりでできている。今展の中心を成す作品《The Politics of Flowers》では、パレスチナの押し花帳と出合った彼女が、そこに収められている草花を撮影した。花弁、茎、小さい葉の一つひとつが、丁寧かつ繊細に写し取られている。押し花として平面に閉じ込められた植物が、彼女の被写体になることで、もう一度生命を宿したかのように見える。
右:The Politics of Flowers(2004) (C)Terri Weifenbach
ただしこの写真群、美しさを湛えるだけに留まらない。健気さや哀しみ、諦念と少しの明るさ、何やら複雑な感情もまた、まとわりついている。作品と対面しているとそれらは弱々しく、でも確かに観る側の内側へと届いてくる。
今作が写真集の形で発表されたのは2005年。先んじる2001年、彼女の住む地では9.11同時多発テロが起こり、その2年後には最愛の母を亡くしている。辛い時期にパレスチナの押し花帳と出合った彼女は、争いや暴力の絶えないこの世界のことをじっと考えながら、草花の姿を写真に収めていった。そんなつくり手の感情が作品に流れ込んでいるのは、想像に難くない。
他に、現地に滞在して制作した新作や、写真と映像を組み合わせたインスタレーション作品もある。小さきものに真摯に目を向けるテリ・ワイフェンバックのこと、より深く知る格好の機会である。
『テリ・ワイフェンバック│The May Sun』
会場 IZU PHOTO MUSEUM (静岡・長泉)
会期 2017年4月9日(日)~8月29日(火)
料金 一般800円(税込)ほか
電話番号 055-989-8780
http://www.izuphoto-museum.jp/
2017.05.26(金)
文=山内宏泰