「すべては描くための準備だった」
大宮エリーの絵画展
「天才」という言葉は、この人のためにある。大宮エリーの軌跡を振り返ると、そう断言したくなる。
日常を題材に笑いを誘うエッセイの第一人者であり、『海でのはなし。』など映画監督のキャリアも。テレビドラマの脚本やCMディレクターをこなし、舞台演出、ラジオパーソナリティ、テレビ出演も多数。幅が広すぎて捉えどころがない。
が、このところどうやら心境の変化が見受けられる。絵を描く、その一点へ意識が集中している気配だ。
2015年に初の絵画展を開くと、翌年に十和田市現代美術館で展覧会。そして今年は、福井県で大規模な個展を開催することになった。
「絵画を描くぞ、アートをするんだ! などと野心を抱いたわけじゃないんです。たまたま流れで始めて、大事な活動になっていった」と本人は話す。
2012年、請われて即興のライブペインティングをする機会があり、《お祝いの調べ:直島》という作品が生まれた。以来、描くことにのめり込んでいく。
彼女の絵画は、高い技術を駆使するものじゃない。どちらかといえば素朴で、感情をそのままキャンバスなどにぶつけるような描き方をする。実際、よほど大きい絵でないかぎり、1時間ほどで描き上げてしまうという。粗っぽいとも形容できるそうした作品が、観る側の胸にすっと入り込んでくるのは不思議だ。
「言葉ではうまく伝えられない“波動”みたいなものが、絵だと表現できる気はしますね」
たしかに大宮作品は、とりわけ実物の作品と対峙したとき、しんとして張り詰めた空気感、生暖かい微風が吹くような開放感、熱量など五感に直接訴えるものが強く迫る。
「場の力みたいなものを、いつももらっているかなと思いますよ。ハワイ島や久高島、十和田……。どこかへ出かけて、そこから持ち帰ったものが絵の素になっているので」
ときに、これまでは言葉の領域で作品を紡いできた印象があったのに、かくも絵画へ情熱を注ぐのは、大転換のようにも見えるのだが。
「私はこれまでいろんなことをしてきたけれど、『すべては絵を描くための準備だったんじゃないか』と人に指摘されました。なるほど考えれば文章で物語を紡ぐ構成力、映像制作で培ったモノの切り取り方、ラジオのライブ感覚や舞台の奥行き、どれも絵に生かせるものばかりと気づきました。そう考えると辻褄が合うし、自分としてはやっていること、一貫して変わらないつもりです」
言葉になる以前の思いをかたちにする。大宮エリー新境地の全貌が、福井で明らかになる。
『This is forest speaking ~もしもしこちら森です』
会場 金津創作の森アートコア(福井・あらわ市)
会期 2017年4月22日(土)~6月11日(日)
料金 一般800円(税込)ほか
電話番号 0776-73-7800
http://sosaku.jp/information/artcore
2017.04.29(土)
文=山内宏泰