樹海を歩き都市伝説の真偽を確かめる

西湖の向こうに平たく広がっている陸地が樹海。ただならぬ存在感がある。

 「星のや富士」で楽しめるアクティビティは独創性に満ちている。日本で最もミステリアスなエリアとも言えそうな青木ヶ原樹海と溶岩洞穴を、樹海を知り尽くしたガイドと共に訪れる「樹海ネイチャーツアー」が、冬でも土・日には開催されている(冬以外は毎日開催)。

樹海の遊歩道の入り口に立つ地図の看板。

 青木ヶ原樹海は、山手線の内側ほどの広さがある。国の天然記念物に指定されていて、入り口に掲げられた地図看板を見れば、キャンプ場もあり、遊歩道も設けられている。しかし、噴火した溶岩の上にできた苔むした大地は鬱蒼とした森となって波打ち、地形の傾きが分からなくなりそう。ガイド付きツアーでないと、やはり迷ってしまいそうだ。

入り口辺りは、車が入っていける道路もあって、まだ広い。
しかし、ちょっと奥に入るとこんな感じ。下は溶岩なので、木の根が大地を這っている。見渡しても風景が似ていて、どちらに進んだか分かりにくい。

 樹海を案内してくれる近藤光一さんは、富士吉田市生まれで、富士山登頂600回を誇る熟練のネイチャーガイド。富士山の大噴火で流れた溶岩の大地の上に出来た森なので木の根が地下には伸びず地上を這っていること、この森のけもの達は人の気配に敏感でなかなか出て来ないことなど、樹海の自然について話を聞かせてもらいながら、近藤さんについて歩く。

樹海トレッキングの頼もしいガイド、近藤光一さんについて森を歩く。
左:木に生えたきのこ「猿の腰かけ」やけもの道などもすぐ発見する近藤さん。
右:地図で今はここら辺りと示してもらいながら進む。

 遊歩道をしばらく歩いてから、溶岩でできた竜宮洞穴に向かう。入り口から一段下がったところに祠がたっており、山伏の納めたお札が祀られている。今は落石の危険があるのでここから下には行けないとのことだが、ひんやりした何とも不思議な空間。

左:竜宮洞穴は、入り口は見逃しそうなぐらい小さい。
右:なのに、中はこんなに大きく広がっている。

 ここで静かに瞑想すれば六根清浄(五感に「第六感(意識)」を加えた六つの感覚を清らかにすること)の修行になるのだとか。この場に立って感じることは人それぞれだが、確かに感覚が研ぎすまされそうな場所ではある。

 神秘的な竜宮洞穴の後は、少しほっとした感じの帰り道。やはりここに来たからには、あの都市伝説「樹海の中では方位磁石が利かなくなる」の真偽を確かめない訳にはいかない。

方位磁石で都市伝説を検証中。

 どきどきしながら磁石を見つめるも、結論からいうと磁石はちゃんとすぐに方位を指した。近藤さんの話では、溶岩の一部には磁鉄鉱を多く含む場所もあって、多少、針の揺れが大きいそうだが狂ってしまうようなことはないそう。やはりあれは都市伝説だった。

左:リュックサックに入った双眼鏡で鳥を探してみるが、樹海の野生の鳥や動物は用心深く、姿を現さない。
右:樹海の達人、近藤氏はこうした野生動物の気配を敏感に感じるという。リスがきれいに齧った松ぼっくりなどを見せてくれる。

 樹海トレッキングは、歩いている時間は1時間程度なのだが、空気が濃密で、時間がたつのも遅いような気がする。季節によって表情が大きく変わりそうだが、冬の濃く深い森では、なおさら自分を囲む自然がずっしりと感じられた。

2016.12.25(日)
文=小野アムスデン道子
撮影=鈴木七絵