宮廷料理の味わいとは?
一言で韓国料理といっても様々ですが、宮廷料理は全体的に上品で淡白な味わい。陰陽五行思想に基づき、五味(甘、辛、酸、苦、塩)、五色(赤、緑、黄、白、黒)、五法(焼く、煮る、蒸す、炒める、生)をバランスよく取り入れた献立が特徴的です。
歴史をたどれば、宮廷料理が生まれたのは朝鮮王朝時代。当時の宮中では、幼少期から料理の訓練を受けた「女官」と男性調理士「熟手(スクス)」が、韓国各地から献上された特産品の中でも最高の材料を使い、王族の料理を作っていたのだとか。王に対して正当な政治を望む気持ちから、調理には形が崩れた野菜や魚は使わず、形の整った食材の最も美味しい部分だけを厳選。他にも様々なルールがあり、たとえば刺激の強い香辛料や匂いの強いものは使わず、塩辛い味付けや辛い味付けは避け、食材本来の淡い味が出るように工夫されています。口承や記録で伝わるルールを守って作られる宮廷料理は、韓国の重要無形文化財。韓国を訪れる際には、ぜひ味わってみたいところです。
宮廷料理の代表メニューを見てみると、最も代表的なのは前菜の盛り合わせ「九節板」(クジョルパン)。これは円形の器に肉や野菜などの8種類のナムルを少しずつ盛り付け、中央に薄くて丸い小麦粉のクレープ(ミルジョンビョン)を盛った料理で、食べる時はクレープでナムルを巻き、酢醤油などに付けていただきます。
もうひとつの代表メニュー「シンソンロ」(神仙炉)は、独特な形の一人用鍋で出される鍋料理。豊富な食材を盛り付けた宮廷式鍋料理は目に鮮やかで、味わいは穏やか。辛いイメージの韓国料理と違い、味付けは実に繊細です。そもそも唐辛子は、17世紀に日本を経由して朝鮮半島に伝わったもの。それより昔の韓国料理は辛くなかったのだとか。
600年の歴史を持つ宮廷料理のコースは、カラダにやさしく、目に美しく、食後は実に優雅な気分。韓国を訪れるなら一度は体験したい、味の文化遺産です。
2016.12.26(月)
文=小松めぐみ