プチプラがメジャー化。だからさらにずば抜けるという力学
リーマンショック以降、「安かろう悪かろう」という製品が一気に減った。“安くても良いもの”がコスメ界に溢れたのだ。また震災以降、安い製品もきちんと評価を得るようになってきた。まさに“プチプラコスメがメジャー化する時代”がやってきたのだ。
でもリーマンから8年、東日本大震災から5年……市場にはまた変化が訪れ、再び高級化が始まり、この秋は超高級化粧品が続々デビュー。そこで改めて気がついた。プチプラコスメ市場にも、いつの間にやら大きな変化が起きていたのだ。“プチプラコスメ”としてひとくくりにしてきた市場にも、明らかに格差が出てきていたのだ。
「安かろう悪かろう、ではない」のが、新しいプチプラコスメの定義だとすると、もうその枠に収まりきれないほど、最先端なのに異様に安いという、新しいカテゴリーが既にできあがっていたのだ。いや、これは今に始まったことでは無い。もともと極めて優れた商品開発力を持ちながら、逆に安すぎて、損をしていたかもしれないブランドが実はいくつもあって、そういう有難いブランドが一つのカテゴリーとして、今改めて湧き上がってきているのだ。
その代表的なブランドが、ケイトであり、オルビスだろう。言うまでもなく花王ソフィーナや、資生堂インテグレートのようなものも、このカテゴリーに入れていいはずだが、ケイトとオルビスは何かこだわりが尋常ではなく、そういう意味ではさらに別格な気がしている。
もちろん以前からプチプラの星とも呼ばれる成功を収めていたわけだが、不思議なもので、プチプラコスメ全体の評価が高まるにつれ、もともと優れたブランドは、さらにその基準を上回ろうとする力学が働くようで、中身にますます差がついてきたのだ。はっきり言って、プレステージブランドやテクノロジーコスメと呼ばれるものと、まったく遜色のない内容にもかかわらず、2,000円台で買えてしまったりという、有り難い不条理がそこにはあるのだ。
ケイトは、言わずと知れた“軸モノ作り”の天才。アイライナーにアイブロー、マスカラといった軸物を作らせたら、右に出るものなし。なんでこんなに上手いのか? 正直“この軸モノ”は、もはやそれほど大きく進化するような要素もなく、だからこそちょっとした技術とセンスとこだわり有無で大きな差がついてくる。もう他が到底追いつけないほど圧倒的な差がついているのに、今シーズンまた、筆ペン王者“ぺんてる”とのコラボでさらに徹底してこだわり抜いた筆ペンライナーをデビューさせている。価格設定が凄いということ以前に、商品開発も別次元なのだ。
一方のオルビスも、オイルカットの進化にこだわり、ヒートショックプロテインや発酵の追求にこだわりと、正直“価格に見合わない”ほどの精度と情熱で商品開発に取り組み、何よりその手応えと満足度はプレステージ級。プチプラ系では異例の先端エイジングケアを標榜してきた。もちろん、価格に合わせて開発の手を緩めてほしい、などとは誰も思っていないわけで、そういう意味ではまさに理想形!
2016.12.05(月)
文=齋藤 薫
撮影=吉澤康夫