「女性自身」を彩った人気漫画といえば?
まずは、『悪女聖書(バイブル)』である。
単行本にして実に27巻にもおよぶこの大河漫画は、原作・池田悦子、作画・牧美也子というゴールデンコンビによる作品。「女性自身」に20年もの長きにわたって連載されていた。昭和生まれの読者なら、母親に連れられて行った美容院(というか、「パーマ屋さん」と言った方がニュアンスが伝わるかも)の本棚にこの単行本が並んでいた光景を懐かしく思い出すかもしれない。
ヒロインである業子(なりこ)の生い立ちからして恐ろしく壮絶だ。
とある結婚式場で催されていた披露宴の席で、三々九度のその瞬間、天井からポタポタと血がこぼれ落ちてくる。天井裏を確かめると、何と巫女が首を吊っていた。瀕死の彼女は、まさに今、階下で華燭の典を行っている新郎の子どもを宿していたのだ。そんな極限状態の中、生まれ落ちた女児は、業を背負って生まれてきたことから業子と名付けられた……。
この初期設定からしてすでにおなかいっぱいなぐらいにドロドロである。俺がヤフオクで入手した14巻および15巻では、業子は花の都パリに渡り、高級香水ブランドを所有するガストン伯爵の巨万の富を狙うも、クレオパトラに扮した仮装パーティの帰りに乗っていた車が炎上して火傷を負い、全身に整形手術を受ける――というドラマティックな展開になっているので、そこに至るまでは相当いろんな修羅場があったものと思われる。
レディースコミックなるジャンル名すら確立していなかった時代に、その醍醐味を先取りしていた牧美也子さんに尊敬の念を捧げます。夢は時間を裏切らない! 時間も夢を裏切らない!(こういうこと言うと牧美也子さんの夫である松本零士さんおよび槇原敬之さんに怒られるだろう。訴えられるかもしれない)
ちなみに、この『悪女聖書』は1988年にTBSでドラマ化されている。ヒロインの業子に扮したのは、高樹沙耶である。当時、あまり悪女には見えないからミスキャストだなどという否定的な意見もあったものだが、まさかその28年後に逮捕されるとは。
悪女って、ちょっとばかりオーバーな比喩表現じゃなく、文字通り違法行為を働くって意味だったのか! キャスティング担当者の慧眼に今さら恐れ入る。予言者だ。
2016.12.04(日)
文・撮影=ヤング
写真=文藝春秋