海岸風景より魅力的とな山岳都市の存在

 1787年、シチリアを訪れた文豪ゲーテは著書「イタリア紀行」でこう書き残しています。

「シチリアなしのイタリアというものは、われわれの心中に何らの表象も作らない。シチリアにこそすべてに対する鍵があるのだ」

 それから230年たったいまも、このイタリア最南端の島は旅人を強く惹きつけます。前回に引き続き、2016年夏のシチリア横断時に得た最新情報を中心にして、その魅力にせまりたいと思います。

山岳都市アジーラにあるホテル、CASA AL BORGOのプールにて。こんなところでのんびり過ごす休日も悪くない。

 シチリアといえば南イタリアらしい透明で青い海や遺跡を想起する人も少なくないでしょう。しかし、それ以上に魅力的ともいえるのが山岳都市の存在です。

 外敵から防御するために山頂に築かれた都市はイタリア全土にありますが、シチリアをはじめとした南イタリアにはとりわけ数多く存在します。

 ギリシャ、カルタゴ、ローマ、アラブ、ノルマンなど、支配者が入れ替わり、戦いを繰り広げてきた地域にあった名残りといえるかもしれません。

シチリアで最も標高の高い都市エンナ。正面に見えるのはアラブ人がエンナを攻略するためにつくった山岳都市カラシベッタ。戦争がこの特異な景観を生み出したことがよくわかる。

 今回訪問した山岳都市はシチリアの島の中心部にあり、シチリアで最も標高の高い街、エンナ。900メートル強の高台にびっしりと建物が密集し、街を歩いていると、細い石畳の路地の先にシチリアの平原がほんのわずかに遠望でき、ここが天空都市であることに気づかされます。

 街の北側にはアラブ人がエンナを攻略するためにつくった山岳都市カラシベッタがあり、あたかも都市と都市が互いににらみをきかせているかのようです。

 エンナから北東にすすむとグーグルの日本語検索ではほとんどヒットしないほどマイナーな山岳都市、アジーラがあります。

アジーラを下から眺める。シチリア内陸部にはこうした山岳都市が少なくない。当然のことながら都市からの眺望は優れている。

 この街の魅力は円錐状の山を取り囲むように住宅で埋めつくされている景観ですが、さらに圧倒的ともいえるのが、アジーラから遠望するエトナ山と湖の組み合わせ。CASA AL BORGOというプチホテルがあり、プールからシチリアの大平原を文字通り睥睨できます。2016年8月にはエトナ山を目の前にのぞむゲストルームも建設中でした。完成すればさらに絶景を楽しむことができそうです。

山岳都市アジーラにあるホテル、CASA AL BORGOからエトナ山をのぞむ。シチリア屈指の絶景だが、その存在はほとんど知られていない。

2016.11.28(月)
文・撮影=橋賀秀紀