(4) 家への理想が低い

軽井沢の夏の楽しみは、テラスでの食事。

 「絶対にこんな家に住みたい!」「自分の理想の家を建てたい」という気持ちがありません。

 賃貸物件を探す時も、ほどほどに気に入ったら「まあいいかなあ」って感じでいつも決めています。何十軒も回るとかっていうことはありません。まあまあ気に入った家を、なるべく快適になるように工夫しながら暮らしていきます。

 それは家具や生活道具についても同じ。「きらいなものは置きたくない」ぐらいの気持ちでセレクトしています。お気に入りを、足を棒にして探すということはないです。

(5) 仕事の幅も広げたい

福井では友達がどんどん増えて嬉しいです。陶芸家とそば職人。

 仕事のこともこれからどうなるかわかりません。

 福井で始めた「千年陶画プロジェクト」ですが、数年前までは、まさか福井に家を借りることになるとは思ってもいませんでした。この数年、思いもよらない仕事が入ってきたりしているので、自分の今後の仕事がどうなるのか予想がつかない部分もありますが、そんなときに、気軽に家を引っ越したり、場所を移動したりできることが私にとっては重要です。

(6) 定住する必要性がない

 私たちには子供がいませんし、家業を継ぐなどその土地にいなければいけない理由がありません。

福井に遊びに来た友達と夫と一緒に、無農薬で作っている田んぼを見学。

 もちろん賃貸に住むことのデメリットもいろいろあります。ですが、それらを知った上で、家を持たないことを選択して暮らしています。

 東日本大震災がきっかけで東京しか拠点がないことに不安を持ち、軽井沢の家を借り、モノへのこだわりがさらになくなり、いつでも移動できるよう身軽でいたいと思うようになってきたけれど、これからもきっと自分たちの価値観って変わる気がします。数年後、いったいどうしてるのかな、まだこの家に住んでいるのかな。それもわかりませんが、いまのところはこの暮らし方が私たち夫婦にとってはベストです。

松尾たいこ(まつお・たいこ)
アーティスト/イラストレーター。広島県呉市生まれ。1995年、11年間勤めた地元の自動車会社を辞め32歳で上京。セツ・モードセミナーに入学、1998年からイラストレーターに転身。これまで300冊近い本の表紙イラストを担当。著作に、江國香織との共著『ふりむく』、角田光代との共著『Presents』『なくしたものたちの国』など。2013年には初エッセイ『東京おとな日和』を出し、ファッションやインテリア、そのライフスタイル全般にファンが広がる。2014年からは福井にて「千年陶画」プロジェクトスタート。現在、東京・軽井沢・福井の三拠点生活中。夫はジャーナリストの佐々木俊尚。公式サイト http://taikomatsuo.jimdo.com/

Column

松尾たいこの三拠点ミニマルライフ

一カ月に三都市を移動、旅するように暮らすイラストレーターの松尾たいこさんがマルチハビテーション(多拠点生活)の楽しみをつづります。

2016.08.27(土)
文・撮影=松尾たいこ