紫野和久傳を代表する、ささのか菓子「西湖」と「希水」
茶菓席では、お菓子を通して料亭の感性に触れられるのも楽しみのひとつです。たとえば「西湖」や「希水」などの笹の葉に包まれたお菓子は、わずかに白地がのぞく織部の縁高の器に盛りつけられ、まるで静物画のような美しさ。
西湖や希水は平皿の上で笹の葉をほどくと葉っぱがお皿の真横にはみ出してしまいますが、縁の高い器に盛ると葉っぱが斜め上に逃げてくれるので、いただいている時も視覚的に落ち着きます。
そもそも「西湖」は、かつて料亭「和久傳」の食後の甘味として作られ、おもたせの店「紫野和久傳」が生まれるきっかけとなったお菓子。笹の葉の上でなめらかなお菓子を切って口に入れれば、つるんととろけ、和三盆のやさしい甘みが広がります。その食感はわらび餅に似ているものの、材料は蓮の根から採れるでんぷん。菓名の「西湖」とは、蓮の花が浄土のごとく咲き誇る、中国の美しい湖のことなのだとか。
一方、2009年に登場した「希水」は、笹の葉とりんごのエキスをオオバコのでんぷんで固めた夏限定のお菓子。笹の葉の清々しい香りと、ふるふるの食感が魅力的です。菓名の「希水」とは、竹の節と節の間に生じる希少な水のこと。その情景を想像すれば、夏の暑さも一瞬忘れられそうですね。
ガラスの蓋付きの器に盛られて登場する「山椒あいす」も、一目で体感温度が下がるような涼感溢れる佇まい。ミルキーな甘さと山椒の風味がそこはかとなく広がる「あいす」は、西洋のアイスクリームとはどこか異なり、口当たりも甘さもやさしく控えめです。聞けば、材料のジャージー牛乳と山椒は丹後産。そして京丹後市は、明治3年に料理旅館として「和久傳」が創業した場所なのだとか。
甘味を味わいながら歴史に思いを馳せられるのも、老舗のよさというもの。丸の内でほっこりしたい午後には、「紫野和久傳 丸の内」がおすすめです。
紫野和久傳 丸の内 茶菓
所在地 東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル1F
電話番号 03-3210-0020
営業時間 平日 11:00~17:30(L.O. 17:00)、土日祝 11:00~18:00(L.O. 17:30)
定休日 無休(年末年始を除く)
URL http://www.wakuden.jp/tenpo-maru-chaka/
小松めぐみ (こまつ めぐみ)
東京都生まれ。食い道楽の親の影響で、10代半ばにして料理に目覚める。大学卒業後、出版社勤務を経てフリーランスに。2000年に独立し、主に雑誌で飲食関連の記事を編集している。
Column
小松めぐみの和菓子で和む、ほっこり時間
落ち着いた和の空間で和菓子をいただき、ほっこり和む、幸せな時間。仕事の合間や散歩の途中に、自分の時間を取り戻せる甘味屋さんをご紹介します。
2016.06.19(日)
文・撮影=小松めぐみ