ご当地のお楽しみ その3
「一枚の絵のような加賀友禅に見入る」

左:毎田仁嗣氏の後ろには、自らデザインした加賀友禅のモダンな着物。伝統を守りつつも、建築を学んでいたこともあり、内装とのコラボレーションに意欲を燃やす。
右:見事な加賀友禅の黒留袖。美しい細密画のようだ。

 同じく加賀の伝統工芸を代表するのが加賀友禅。手描きの美しい柄に目を見張るが、こちらもまず、下絵の線を布地に描いて、糊で防染した上で驚くほど細かに着彩してから、糊を水洗いするという工程を経て出来上がっている。

 友禅という名は、美しい画風で人気を博した江戸時代の京都の扇絵師、宮崎友禅斎の名前に由来する。京友禅、加賀友禅、東京友禅などが知られるが、刺繍などで立体感を演出する華美な京友禅に対し、武家文化の中で育った加賀友禅は、華やかさより手の込んだ絵柄を求めるという。

 「界 加賀」の内装に用いられている加賀友禅を作る毎田染画工芸の毎田仁嗣氏の工房で、友禅を仕上げる工程を見せていただいた。

 加賀友禅は、下絵、防染のための糊置き、着彩、水洗など、図案から仕上げまで小さな作業を含めると約15もの工程がある。古来、工程ごとに職人による分業が基本となっていたが、この工房では均一の品質を保ち、最終の仕上げまで見届けるため、一貫して内製しているという。

画の輪郭に糊を置いていく。一定の線を描くには熟練の技がいる。

 「加賀友禅の着物は、一枚の絵になっていますので、まずは仮縫いをして下絵をそこに写し取ります。この下絵は後で水洗いした時に消えるように、露草の花びらのみで作った特殊な染料を用います。その後にいったん反物に戻し、下絵を糊でなぞります。そうすれば、着彩しても色が広がらずに済むのです」(毎田氏)

 ため息の出そうなほど細かい作業工程はまだまだ続く。

 「そこに何人もの職人が、一つ一つ手描きで色を着けていきます。虫喰いという葉が虫に食べられたような柄や、先ぼかしなど写実的で細かな手法が加賀友禅の特徴。さらに模様以外の部分を刷毛で地染めして、最後に水洗いすると糊の部分は洗い流され、細い白の線として残って出来上がります」(毎田氏)

反物への彩色は、加賀五彩という伝統色を基本に何十もの色で、細い筆と刷毛を使って行う。待ち針で濃淡を示し、各自の持ち味を生かして数人で描く。

 これまで星野リゾートの「界」を巡り、ご当地部屋を飾るさまざまな工芸作品の作家の方にお話を聞いてきたが、制作の現場を見せていただいたのは今回が初めて。これだけの技と手間、時間をかけて作り上げられた工芸作品に触れ、時に使うことは貴重な機会だと、改めて思った。

 百万石の豊かさがそうした工芸を育て、守ってきた加賀で、日本の美を満喫した旅だった。

星野リゾート 界 加賀
所在地 石川県加賀市山代温泉18-47
電話番号 0570-073-011(予約センター)
URL http://kai-kaga.jp

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小野アムスデン道子 (おの アムスデン みちこ)
ロンリープラネット日本語版の立ち上げより編集に携わったことから、ローカルグルメや非日常の体験などこだわりのある旅の楽しみ方を発信するトラベル・ ジャーナリストへ。エアライン機内誌、新聞、ウェブサイトなどへの寄稿や旅番組のコメンテーター、講演などを通して、次なる旅先の提案をしている。
Twitter https://twitter.com/ono_travel

Column

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2016.04.24(日)
文=小野アムスデン道子
撮影=山元茂樹