ご当地のお楽しみ その2
「山中塗が仕上がるまでの手間と時間に驚く」

左:山中漆器が出来るまでの工程を語る西本浩一氏。
右:「界 加賀」の先付の器に描かれた鞍掛山・大日山・富士写ヶ岳(加賀三山)と白山連峰は、北陸・加賀の人々には特別な思いのある風景という。

 「界 加賀」の部屋を飾るアートパネル、そして食器などに用いられているのが、加賀の伝統工芸の一つ、山中漆器。その滑らかな手触り、見事な艶は素晴らしい。

 一つ一つ木をくり抜いて、塗りを重ねて研ぐという工程の手間と時間を知ると、さらにその価値の重みが分かる。「界 加賀」で用いられている漆器は、株式会社西本の西本浩一氏が、工程ごとにそれぞれの専門家である職人の技を取りまとめて、1年以上もかけて作り上げたもの。西本氏にその工程をのぞかせてもらった。

紅葉の赤を映す白山の清流や日本海の荒波をイメージした波蒔絵椀。

 「山中漆器は、材料を大まかにろくろで引く木地挽き、最終的な形にする下地、下塗り・中塗り・とぎ・上塗りという3段階の塗り、そしてそこに絵を描く蒔絵と、細かく制作の段階が分かれます。完全に専門の匠によって分業化されていて、取りまとめている者以外、作っている段階では最終的な出来上がりがどうなるのか知らないぐらいです。そして、ろくろの作業に入るまで、材木は数カ月かけて乾燥させるし、塗ってからも半年ぐらい寝かせてから蒔絵を描くので、椀一つでも出来上がるまで1年間はかかります」と西本氏は語る。

ろくろを使って、みるみる薄く木が挽かれていく。

 山中漆器の長い歴史は、天正年間(1573~1593年)に越前から木地師が移住し、その挽き物の技術を伝えたことに始まる。その後、江戸時代には、前田家が、茶道具を作るのに木地師を招いたり、蒔絵の名工を輩出したりした。それらが現代の山中塗の礎になっているのだ。

左:ムラにならぬよう一挙に漆を塗っていく。緊張感が漂う。50代でもまだ若手と言われる世界だ。
右:漆を塗る刷毛は、良質な人毛で作られている。

 木を薄く挽く技術に優れていることから、美術品としても評価される瀟洒な感覚が特徴だ。目の前で、ろくろを使って木を挽いていくところや、少しの埃がつくことも許されない塗りの現場を見て、これだけの作業の集積である器を食事に使う贅沢さに感じ入った。

2016.04.24(日)
文=小野アムスデン道子
撮影=山元茂樹