エネルギー危機が「なかったこと」になっている

――今回、買い占めするほどの価格高騰や商品不足が起きないことに安心する一方で、大場さんはかねてより「1970年代のオイルショックのような買い占め・原油価格高騰が起きていないからこそ、『ホルムズ海峡のことがあったけど、案外大丈夫だったね』と思考停止してしまうことに危惧を抱いている」とおっしゃっていました。

 それが一番危ない点です。原油価格は今後落ち着いていくと話しましたが、そもそも今回の危機でエネルギー価格がどれぐらい大変なことになっていたか、知らないまま過ごした人が多いと思うのです。

 ジェット燃料についても、日本では航空券の燃料サーチャージ料は国からの補助金でかなり抑えられています。瞬間的にはありえないくらい高い状態があったのですが、それさえもほとんどの人が体験せずに済んでしまいました。

 ガソリンも補助金によって価格が抑えられています。ニュースの見出しでイラン攻撃があったという話は日々見聞きしていると思いますが、エネルギー価格がどれほど大変なことになっていたかを、生活者として感じることなく過ごせてしまったのです。これが一番の問題だと感じています。政府がパニックを恐れるあまり、買い占めなどをさせないことを最優先し、補助に徹してしまった。これを迅速な対応として評価することもできますが、危機の重大さを国民にまったく感じさせずに素通りさせてしまったともいえる。世界に対する認識を歪めてしまった行為とも捉えることができます。

――では私たちは、日本のエネルギーについて今後どのような意識が必要なのでしょうか。

 前篇で「石油において日本人には大きな影響はない」と言いましたが、実は今の日本の石油調達は、約50%が中東の脆弱な迂回ルートから、残りの50%のうち約45%がアメリカからの輸入です。そして、そのアメリカからの輸入は、アメリカの備蓄の放出によって賄われています。日本は石油が足りない国なのに、自分の備蓄は使わず、アメリカの備蓄を使って調達を100%にしている。輸入統計を見ると安心しますが、その内実を知ると、他国の備蓄によって自国の資源を補うという異常な状態が続いていることがわかります。

 生活者目線だと何も気にしなくてもいいと言えますが、この異常な状態で今の生活が保たれているということは、ぜひ認識していただきたい。そして、それを知るきっかけが奪われている状態にあるということに、私は問題意識を持っています。

 先ほど値上げの可能性があると指摘した冬の電気代も、今回ガソリンや航空燃料において迅速に補助を打ち出した現政府を見ていると、価格が上がらないように介入してくる可能性があります。そうなると価格高騰のリスクがあったことさえも、「なかったこと」にされてしまうかもしれません。

 しかし、補助金による応急処置が続けば、生活者実感と実際の経済との間の乖離はどんどん広がっていきます。物の値段があまり上がっていないと経済は大丈夫な気がしてしまいますが、補助がつかないところではコストが上がり、事業が悪化して株価に影響することもあります。

 この乖離は、じわじわと効いてくる様々なコストやリスクを先送りにしている状態です。しかし、その「先送りされた」という感覚さえ、私たちは失っています。局所的な商品の値上がりよりも、このことのほうがはるかに怖い状況だと考えています。

 ただ、これは「不安になってください」という話ではありません。今回のエネルギー危機で本当に大切なのは、こうして「なかったこと」にされた価格上昇に目を向けること。自分の暮らしが何に支えられているのかを知っておくだけで、次に何が起きても振り回されずにいられます。それは、自分の世界が少し深くなる、静かな豊かさなのだと思います。

» 前篇を読む

最初から記事を読む 「住宅建てられない…」「サーチャージ料の高値が続いてい...