夏の夜には“怪奇”がつきもの。怪談や妖怪にまつわる企画が各地で催される。
福岡県・柳川では、約300年の歴史を誇る「柳川藩主立花邸 御花」では、毎年「奇怪夜行」なるイベントを開催。今年で6年目を迎える大人気イベントだ。
猛暑の夏、少しでも涼を求めて旅をするなら、美しくも奇怪な夜を目当てに出かけるのはどうだろう。
「怖い」と美が交差する場所へ
夏になると、恐怖というエンタメがあちこちで展開されているが、それは、驚かされたり、おぞましいだけだったりと、「怪異」というものが本来持っていたはずの深みや文化的な文脈は、どこか背景に退いてしまっているように感じることも多い。
そんななか、福岡県柳川市で開催される提灯アートイベント「奇怪夜行2026」は、単なる恐怖イベントではない。400年の歴史を持つ文化財の中で、江戸時代から伝わる絵巻物と、創業210余年の提灯職人の技が交わり、怪異そのものを「美」として再定義するのだから。
怪異は、文化財の中に眠っていた
舞台となるのは、旧柳川藩主・立花家の屋敷を今も末裔が守り続ける料亭旅館「柳川藩主立花邸 御花」だ。全敷地7,000坪が国指定名勝に指定されており、日本で唯一泊まれる国指定名勝でもある。
そしてその立花家に伝来する『芸州武太夫物語絵巻』が、まさにこのイベント誕生のきっかけとなりったシンボルだ。江戸時代後期に描かれた全3巻のこの絵巻は、少年・稲生平太郎と妖怪たちとの30日間を描いた物語だ。恐ろしいのだけれど、どこか愛嬌のある妖怪たちが、生き生きと描かれている。会期中は「立花家史料館」に展示されているので、ぜひその筆の息遣いを生で観てみたい。
思えば、江戸時代の人々にとって妖怪とは単なる恐怖の対象ではなく、畏れと親しみが同居し、自然や人知の及ばない領域への想像力が投影された存在。現代の私たちが失いかけているその感覚を、400年の歴史が宿る空間で取り戻す——今年のテーマ「原点回帰」という言葉には、そんな思いが込められている。
