O先輩が珍しくビビっていた場所
大学内でのO先輩は、少々いかつい見た目もあってか“やんちゃな人”というイメージで固まっており、彼が来ると聞くと萎縮してしまう同級生も多かったのですが、親交の深かったTさんたちは、そんなイメージとは裏腹の面倒見の良い一面も知っていました。
『よし、面白そうだから今から行くか!』
いつも、そう言ってエアコンの風がカビ臭い中古のワゴンを気軽に出してくれたO先輩。
『ちょっと走ったとこにさ、でっかいスーパーあるだろ。あそこ、深夜までやってるからライトとか買っていくか』
この手に持ったゴム製のボールも、あの日に立ち寄ったスーパーのガチャガチャコーナーで手に入れた物だったことを、Tさんは思い出しました。
「別に怖いのとか好きじゃなさそうだったのにね。遊んでくれていたんだろうな」
『T、お前そのボール捨てんなよ! いらなくねーよ、思い出だろ!』
ガチャガチャを引いた時にそう言って無理やりゴムボールを押し付けてきた先輩の笑顔。
「……別に先輩が死んだわけでもねぇのになんだよこの空気」
「あはは! 確かに!」
「あー、そういやさ、先輩が珍しくビビっていた場所あったよな~」
「え、あったっけ、そんな場所?」
「あったよ。確か去年の夏くらいに海で飲んでるときに怖い話になったじゃん。あのときに話題に出てたはず……なんだっけ名前」
「あー! 『海来てんのに森の話するのおかしいでしょ!』ってつっこんで終わったやつね」
「それそれ!」
「なんだっけ、なんの森だっけ」
「……変な名前だったのは覚えてるんだけどなぁ」
そのとき、部室のドアが開きました。
