滲んで読めない“点検のお知らせ”

 引っ越し当日。

 業者が大きな家具・家電を数人がかりで階段を使って運び込むのを申し訳なさそうに見守っていたFさん。トラックが道路の向こうに消えていくまで見送ったあと、彼女はふと3階の外廊下の突き当たりに目をやりました。

 ほんのりと日差しが遠のき、廊下の明かりが灯る前のかすかな時間帯。

 慌てて越してきたので例のエレベーターをちゃんと見ていなかったな……――そう思ったのです。


【エレベーター点検のお知らせ】
下記の期間、点検作業のためエレベーターは停止いたします。
■ 点検期間:__________
■ 作業時間:__________
■ 作業内容:点検
管理会社:「有限会社 東□陽□ハウジング□ービス」


 埃で薄汚れたエレベーターの窓に貼られていた貼り紙を見ると、確かに“点検中”であることがわかりました。

 ですが、肝心の点検期間などが全くの空欄で、管理会社の名前も水で滲んだあとに乾いて読みづらく、貼り紙が経年劣化している点も気になりました。

「変なの……」

 しかし、エレベーター以外の点で見ればこのマンションは大当たりでした。

 備え付けのエアコンはマイナスイオンが出る最新モデルであり、給湯器や水周りも比較的新しいもので見栄えも悪くありません。

 寝転んだベッドから見慣れぬ天井を見つめながら、Fさんは呟きました。

「エレベーターも直せばいいのに」

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