「授乳中なので復帰を待ってほしい」レギュラー12本を抱え…

上野 そうした時代的な変化の中で、アグネスさんがゼロ歳児である息子さんを職場に連れて行ったということが問題になったわけですけれど、もしかしたら物議を醸すかもしれないと想定していましたか?

アグネス いいえ。あんなに大きな波紋を呼ぶとは想像もしていませんでした。自分の子育てが話題になるとは思えませんでした。

上野 ですよねぇ。

アグネス 結婚して出産した頃、私はとても忙しかった。テレビとラジオで12本のレギュラー番組を抱えていました。

上野 人気絶頂だったと。

アグネス もちろん自分は恵まれていたと感謝していたし、周囲の人達の期待に応えたいと思っていました。でも、妊娠がわかってとても嬉しかったのです。結婚できて、子どもを授かって、今までにない喜びでした。母がその時カナダにいたのですが、初産ということもあって母に助けてほしいと思い、カナダで産むことを決めました。

上野 カナダで出産したのですか?

アグネス そうです。初めてのことだらけで不安だったので、産後も母の手を借りながら、しばらくはカナダで暮らすつもりでした。でも日本のテレビ局から「もうアグネスさんの冠番組に代役を立てて放映するのは限界なので戻ってきてほしい」「視聴率が落ちるとスポンサーが離れてしまうかもしれない」といった連絡が連日のようにくるようになって。

上野 そうだったの。

アグネス 「授乳中なのでもう3カ月くらい待ってほしい」と伝えましたが、「帰ってきてくれないなら番組を続けることはできない」という切羽詰まった話だったのです。仕事をくれる方はみんな恩人、その人達を裏切ることはしたくなかったです。困惑した末に「テレビ局に息子を連れて行ってもいいですか?」と提案したら「どうぞどうぞ」って、どこのテレビ局の人もそう言いました。それで、日本に戻って仕事を再開することにし、授乳するために子連れで楽屋入りするようになったんです。

 編入したトロント大学では児童心理学を学び、母親と子どもの絆を強める授乳期におけるスキンシップも理解していました。子どもが無意識のうちに養う「自分は大切にされている」という安心感が自己肯定感を高め、良好な対人関係を築くための力になると認識していたので、授乳期を他者に委ねるという発想はなかったのです。

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