1987年、歌手のアグネス・チャンさんが生後数カ月の長男を連れてテレビや講演の仕事に復帰したことから始まった「アグネス論争」。それから40年、女性の働き方は変わったのか。
アグネス・チャンさんと、女性学の第一人者・上野千鶴子さんが当時を振り返る共著『報われない社会で、それでも生きる』(Gakken)より一部を抜粋し、掲載する。
山口百恵の生き方がもっとも美しいとされた時代
上野 アグネス論争の時に乳飲み子だったご長男も、今ではすっかり大人ですね。
アグネス はい。もう39歳になりました。
上野 アグネスさんは?
アグネス 70歳です。長男が結婚して子どもができたので、お婆ちゃんになったんですよ。
上野 あの頃30代だった私も後期高齢者。時の流れを感じますが、アグネス論争当時、芸能界では、女性は出産したら表舞台から姿を消すというのが一般的でしたよね。
アグネス 出産以前に、結婚したら女性は芸能界を引退するという風潮でした。
上野 人気絶頂だった山口百恵さんが結婚と同時に引退したことによって、日本のフェミニズムが20年遅れたと嘆いた人もいたくらい。
アグネス 百恵さんの生き方が最も美しい女性の生き方だと考えられていた時代でした。私も百恵さんを見て、自分の仕事を犠牲にしても愛する夫を支え、家庭第一に生きるという選択をする女性がいてもいい。それはそれで素敵な生き方だと思ったのを覚えています。
上野 同じ頃に結婚した松田聖子さんは引退しませんでした。
アグネス そうですね。私が結婚したのも同じ頃だったので、3人はよく比べられていました。百恵さんは引退して専業主婦の道を選んだ、聖子さんは引退はしなかったけれど、出産後は親御さんなど周囲の人に子どもを見てもらうことにした、私の場合は子連れで仕事場へ行ったということで。
上野 百恵さんは引退したのだからと徹底してプライバシーを公開しませんでしたが、聖子さんは妊娠している姿をメディアで見せました。
アグネス そうですね。私と聖子さんは妊娠中に同じ育児雑誌で連載していたんです。
上野 ということは、その頃からアイドルと呼ばれる若い歌手の妊娠や出産が隠すことではなくなってきていたと言えそうですが。
アグネス 今にして思えば聖子さんや私は、出産後も仕事に復帰する歌手の走りだったんですね。
