現代に生きる人々の「日常と人生」を取材し、ルポエッセイとして作品化してきた、文筆家の大平一枝さん。前篇では、新刊『台所が教えてくれたこと ようやくわかった料理のいろは』に込めた思いや、これまでの軌跡についてご紹介しました。後篇では、作品を通して伝えたいこと、子どもの頃の食の思い出などをお届けします。
» 【前篇から読む】高3の娘から「お弁当、おいしくない」と言われたことも…『東京の台所』の著者・大平一枝が60歳になってようやくわかった「料理のコツ」
「今書いておかないと忘れ去られてしまう尊い価値観」を書きたい
――近年の著作を見ていると食、そして台所をキーとしているように感じます。「食を軸にして書く」といった思いがあるのでしょうか。
大平 食は窓口、入口であって、あたしが書きたいのはその人の価値観ですね。もう少し言うと、「時代と思想」を書きたい。でもそんな大上段から書いても誰も読んでくれません。あたしが書けるものは、「台所」から見える今なのかな。すべての仕事の基本にしていることは、「今書いておかないと忘れ去られてしまう尊い価値観」ということなんです、そういうものを取材したい。それは大量消費、大量生産の対極にあるような価値観です。
――大上段から書いても読んでもらえない、と言われましたが、やはり読まれること、売れることは意識されますか。
大平 意識します。そこは編集者時代に叩き込まれました。当時の上司から「基本的にあなたの書いたものなんて誰も読まない」、そう思って文章を書いたほうがいい、と教わった。ならば、どうするか。まずは分かりやすく。そして多くの人にとって興味のあるテーマにしなければいけない。だから人間の「足元」となる生活のことから書く、というのがベースになったんです。
――それは同時に、むずかしさも孕みませんか。「足元」となるリアルな生活のことをいきなり教えてくれる人ばかりではない、というか。
大平 本当にそう。そうなんだけど、生活にリンクするものって、相手が誰であろうと必ずあるから。例えば、ある女優さんを出演映画の宣伝でインタビューした時のこと。インタビュアーって、みんな同じようなこと聞くわけですよ。だからあえて、食生活のことも聞いてみる。
――具体的には、どんなふうに話を振るわけですか。
大平 「いきなりですけど、今朝は何召し上がってこられました?」とか。そのときは玄米食をされてるって情報があったから、「お忙しい生活なのに、どうして時間のかかる玄米を?」とも聞いてみたら、「母親を早く亡くしたときに、健康って大事だなと思って」、食を大事にしようと思ったみたいな話が聞けて。取材のときは、いろんなボールをあちこちから投げるようにしています。










