初めての“泣ける”恋愛小説は、「男心が分かります」
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今月のオススメ本
『愛のようだ』 長嶋 有
戸倉は40歳にして免許を取得し、友人の須崎、その恋人の琴美と初めての長距離ドライブへ出かける。伊勢神宮へ願掛けに行くためだ。その後も車に乗るたびに、あの時の思い出のスイッチが入る……。オビには、「“泣ける”恋愛小説」。その看板、偽りなし。
長嶋 有 リトルモア 1,200円
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女心をたおやかに描く筆致から、女性作家であると誤解されることも少なくない、長嶋有。彼が最新長篇『愛のようだ』でフォーカスを当てたのは、男心のほうだ。
「ボーイズトークを主軸に置いたエンタメを書こうと思ったんです。男の側からの“男ってこういうところがある”“女についてはこう思う”という意見を、小説の中にいっぱい盛り込みたかった。というのも最近、勢いのあるエッセイ漫画家とかエッセイストはみんな女性ですよね。彼女たちが舌鋒鋭く指摘してくる男性像に対して、耳が痛いと思うところもあれば、違和感もあったんですよ。“俺たちは確かにバカだが、お前らが思ってるようなバカではない!”と、すごく言いたかったんです」
主人公は、40歳にして車の免許を取得した戸倉。チャンスを見つけては友人を誘い、都内からロングドライブへ出かける。証明写真をからかうこと前提で、「免許証見せて?」と言ってくる女は減点。「麻雀できる?」と聞いた時、「ドンジャラならできる」と言う女は大減点! 章ごとに同乗者や目的地が変わり、にぎやかな道中が綴られていく。まるで自分も車に同乗し、男たちの楽しいおしゃべりに耳を澄ましているよう。
「目的地でのことは書かないって、最初に決めたんです。僕自身も40歳の時に免許を取ったんですけど、ドライブの何が楽しいって、大音量で音楽が聴けること。あとはやっぱり、車中でのおしゃべりで。車で移動すること自体が楽しいってことを書いた、“純ロードノベル”です」
この車には、女性が乗ることもある。戸倉の親友・須崎の恋人は、琴美だ。彼女のことが、戸倉は好きだ。そんな3人が、伊勢神宮へドライブに出かける。琴美の病気が治るよう、願掛けするために。
「漫画のことに詳しくない女の子という設定を思いついた時、僕が“ブルボン小林”のペンネームでやってきた漫画評論家としての仕事を全部、ここに入れられるじゃんと思ったんです。最初のドライブで琴美とどんな会話をして、戸倉との関係は最後にどうなるのか。二人の関係を一本の軸に据えると決めたことで、道中は自由に書いても大丈夫だと思えるようになったんです」
ラストシーンで辿り着くのはどんな風景か。そこで出合う、感情とは。
「CREAの読者に言っておきたいのは、好きな街がある女よりも、好きな車がある女のほうが素敵だということです。これを読むと、男心が分かりますよ」
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長嶋 有(ながしま ゆう)
1972年生まれ。2001年「サイドカーに犬」で第92回文學界新人賞を受賞しデビュー。翌年「猛スピードで母は」で第126回芥川賞受賞。またブルボン小林として、漫画評論家としても活躍。
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Column
BOOKS INTERVIEW 本の本音
純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!
2016.02.02(火)
文=吉田大助
CREA 2016年2月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。