vol.01 富山
駅から10分ほどの住宅街という不思議な立地
20年ぶりの富山である。実は旅の最終地は富山ではなく、飛騨高山だった。
高山に東京から行くには、名古屋経由と富山経由があることを知り、富山に寄る事にしたのである。理由は二つある。高山に行くのに、行きは富山経由、帰りは名古屋経由にすると一筆書きとなり、乗車券が1枚ですんで安くなる。もう一つは、食通の方から「いい割烹がある」と奨められて、矢も楯もたまらず行きたくなったのである。
駅からは、タクシーも考えたが、路面電車に乗って歩いていくことにした。電車で揺られること、10分、「(富山)大学前」で降り、住宅街を10分ほど歩く。やがて大通りに出ると、その店は見えてきた。なんとも不思議な立地である。その割烹「ふじ居」は、郊外の大型薬局の駐車場の片隅に、ぽつねんと佇んでいた。
店に入ると、ご主人が一人カウンターの中で挨拶された。どうやらお手伝いの女性と二人で切り盛りされているらしい。店は厨房を望むカウンターと椅子席、それに個室がある。普段は二人でやられ、予約で満席な時だけ、お手伝いを頼むのだと言う。
店主藤井寛徳さんは、30代後半だろうか、京都などで修行され、地元で割烹をはじめられたのだと言う。端整な顔立ちで、爽やかな方である。彼なら、恐らく割烹に不慣れな方でも、リラックスして食事が楽しめるだろう。
お昼のコースは2,500円と3,500円だが、事前に電話して夜の6,500円のコースをお願いしていた。先付として、水菜のおひたしに焼きウニと菊を添えた小鉢が出され、割烹の華である、お椀が出された。
特注だという、「おわら風の盆」を描いた輪島塗の椀が素晴らしい。9月に行われる「おわら風の盆」は、富山八尾に伝わる民謡行事で、代々歌い継がれてきた正調おわらに合わせて、男女の踊り子が美しく舞い踊る行事である。蓋の表と裏には、舞い踊る男女の踊り子が描かれている。これだけで藤井さんの郷土愛と、この地の恵みを生かして料理を生み出していこうという強い意志が伝わってくる。
2016.01.14(木)
文・撮影=マッキー牧元