旅館道 その2
「伝統の野州麻でできた作品に親しむ」

部屋は畳敷きだが、いつでも横になれるベッドやソファに掘りごたつも。

 「界 川治」の畳敷きの広々とした部屋には、窓の景色を楽しめる「ごろんとソファ」や、いつでも横になれるようベッドも配されて、寛げる。また、その地の魅力に触れる「ご当地部屋」として用意されているのが「野州麻紙の間」だ。

左:野州麻が絡み合って、趣のある結(ゆい)ライトになっている。
右:ベッドの枕元の麻紙が貼られた照明には、稲穂のシルエットが浮かび上がる。
壁のタペストリーは、柿渋がいい味を出している。

 この「ご当地部屋」は、里山工房での野州麻紙も監修された麻紙職人の大森芳紀氏とのコラボレーション。麻紙に漉き込まれた稲穂が浮かび上がる照明や、麻紙を丸くかたどったライトなど、そこここに置かれた作品によって、これまでしめ縄などの素材として使われて来た野州麻の新たな魅力を生み出している。

左:伝統工芸でありながらも身近に使われている織物を見て、野州麻で様々な作品を作り始めたという大森芳紀氏。
右:大森氏の足元を照らす照明の柄になっているのはかんぴょう。

 「全国一の生産量を誇る栃木県鹿沼市の麻は、野州麻と呼ばれ、しめ縄やお祓いの大麻(おおぬさ)、相撲の横綱などに使われてきた特別なもの。野州麻栽培農家の8代目として、今も栽培を続けていますが、織物などの伝統工芸がそうであるように、もっと生活の中でも使われるものにしたいと思ってきました。そこで2001年に『野州麻和紙工房』を作り、日本で唯一の麻100%の和紙作りを始めました。この野州麻和紙を使った照明などの作品や、紙漉きの体験を通して、麻を身近に感じてもらえればと思っています」と大森氏は語る。

漉き船の中の麻の繊維をさぶりと呼ばれる道具でよく混ぜる。
その後、すげたですくい取る。
水滴を落として柄を作る“落水”という技を見せてくれる大森氏。

 実際に、野州麻紙の紙漉き体験の手順を里山工房で大森氏に見せてもらう。漉き船と呼ばれるものの中には、紙料となる麻の繊維が水に溶かしてあって、それを何回もよく混ぜてからねりを入れて、すげたですくい取る。それを乾かして便せんやポストカードにする。一枚として同じものはないのが紙漉きの楽しさだ。

 ゆすり方で厚みの調整をしたり、水滴を落として穴の柄を作るといった技も見せてもらう。作り上げられた作品は、素朴な中に自然の妙が感じられてとても趣があった。

2015.12.26(土)
文=小野アムスデン道子
撮影=釜谷洋史