星野リゾート 界 箱根(前篇)
ほっとするような落ち着いた時間、いつもと違う非日常の過ごし方ができる日本旅館に泊まる旅「旅館道」。「和心地」な温泉旅館をコンセプトとする星野リゾートの「界」と、「現代を休む日」をコンセプトにした和のリゾート「星のや」を巡るこのコラムでは、温泉を備えた旅館を味わい、その土地ならではの文化や自然の魅力など日本を再発見する旅をします。
今回の宿は、緑濃い山と渓流に挟まれた「星野リゾート 界 箱根」。美しい寄木細工を愛で、旧東海道を往く旅を紹介します。
旅館道 その1
「緑陰の濃さと渓流の流れに癒される」
「箱根の山は、天下の嶮(けん)」と唱歌に歌われたように険しい箱根峠。そのふもとには、古くから温泉に宿場が開かれ、東海道を行き交う人々に安らぎを与えてきた。そんな箱根温泉郷の入口にある湯本温泉に、湯坂山の緑陰と須雲川の清流とを眺めるように立つのが「星野リゾート 界 箱根」だ。
小田急ロマンスカーであれば新宿から約85分、または、JR小田原駅から箱根登山鉄道に乗ったなら約15分で、最寄りの箱根湯本駅に着く。そこからはタクシーで約7分。都心からのアクセスがこんなによい場所なのに、静寂と緑の深さにまず驚かされる。
右:箱根寄木細工の作品は、窓の向こうの緑と美しいバランスを見せる。
ロビーとライブラリーが一体化した大空間の壁は、全面ガラス。まるで額縁のような窓枠の向こうに濃淡の緑が映え、一枚の絵のように美しい。
この「星野リゾート 界 箱根」の設計を手がけたのは、坂倉建築研究所。ル・コルビュジエに師事した日本のモダニズム建築の代表的存在である坂倉準三の哲学を継承する研究所だ。
ロビー棟から客室棟へと向かう竹の回廊のちょっとした隙間にのぞく緑、そして、客室やダイニングの大きく開かれた窓からの緑は、はっとさせられるほど美しい。川のせせらぎや鳥のさえずりが聞こえ、緑に包み込まれた中に身を置くことそのものが養生になる。
壁一面が吹き抜けとなった半露天の大浴場は周囲の自然に溶け込むよう。古代檜の湯船には柔らかな泉質の温泉があふれて、四季折々の自然の美を愛でながらゆっくりとした時間を楽しめる。夏の期間限定で浴場内に冷たいミントレモン水が置かれているのは嬉しい心遣いだ。
2015.08.03(月)
文=小野アムスデン道子
撮影=山元茂樹