後半戦は怒涛の炭水化物プラス旨み祭り!
さて、正直言って私は酢豚、いわゆる甘酢が苦手。予約のときに苦手なものはない、と言ってしまったが、出てきてしまった甘酢料理。主役は豚ではなく、対馬の穴子だ。サクサクに揚げ、銀杏・栗・柿と、とことん秋らしい組み合わせ。黒酢を使った甘酢も穏やかめだったので、これならいける……!
そしてなにより窮地を救ってくれたのが、蒸しパンである。ほんのり甘い蒸しパンを、あろうことかバターで焼いたという、もう何個でも食べられそうな展開。気づけば完食であった。
そして、いよいよ私が恐る恐る手を挙げるときが訪れた。よだれ牛の登場である。四川料理の(よだれ鶏、ならぬ)よだれ牛。ちらっと見た時点ですかさず「あのぅ、コースの途中でごはんを注文できると聞いたのですが本当でしょうか」。「もちろんですよ!」と神の声。
なにしろよだれ牛は、ソースだけでごはんが進む逸品であった。この素晴らしいひと品をごはんなしで食べるなんて考えられない……。ごはん茶碗が小さい湯呑みくらいの大きさなので、このひと品だけでお替わりを所望してしまった……。
もう満足感でいっぱいだが、まだまだコースはつづく。キンキのしっぽの揚げびたしである。全体を揚げびたしにして取り分けるのではなく、みんなしっぽ。しっぽはおいしい。ヒレの隙間までおいしい。付け根の骨回りもおいしい。蟹を食べるごとく、無言になってペロリ。骨をちゅうちゅう吸いながらも、ここでもごはんをいただいた。
リズムが楽しいコースである。ここで春巻きが現れた。しかも、中身はししゃも。そんなに何度も食べたことがあるわけではないが、ししゃもの春巻きは大好物。素晴らしい発明である。そして、昔、春巻きの取材で「最初はきゅっと、最後はふわっと巻くといい」と習ったことがあるが、こちらの巻き具合はまさにそれで、最後の一周のゆるさがこの春巻きの完成度をぐっと上げているように思った。半分は外側に生ハムが巻かれており、この部分はまた違った塩味で楽しめる。
通常は、ここでごはんを食べる人も多いであろう。麻婆味の「ごはんのおかず」が登場。豆腐ではなく、京揚げ、白子、尾崎牛の肉味噌という贅沢な具がたっぷり。それぞれの食感、噛むごとに広がる食感と味わいが違うから、えらく楽しい。特に肉味噌は、「肉味噌も天下の尾崎牛で作ると違うんだなぁ」と感じ入ってしまった。そして、ミニ茶碗とはいえ、またまたごはんをペロリ。
もうここまででかなりお腹がいっぱいだったけれど、〆の麺は食べ逃せない。すっきりとしたねぎそばである。「稲庭中華麺」という、稲庭うどんの製法で作る中華麺だそうで、表面がツルンとしている。生中華麺と違うプリッとした食感があり、いわゆる「麺にスープが絡みつく!」という感じではなく、そっとまとわりついているような感じ。いやはや、喉越しもいいのですっすっと食べられ、満腹なのに(あれほどごはんを食べたのに)、しっかりと食べてしまった。
きなこのアイスクリーム、和三盆の杏仁豆腐と、デザートも2品。もうのけぞるほどに満腹、満足である。
完食(というか気分は完走)してみると、食材は日本中の一級品なのだけれど、しっかりと中華。特に、最初のヒゲダラのねぎ油から、最後のねぎそばまで、ねぎ使いがお見事で、ありとあらゆる形でねぎがひと品ひと品を支えている。とはいえ、ねぎが前面に出てにおったりするわけではなく、あくまでも脇を固める存在としてのねぎがすごい。
帰り際、カウンターの中の料理長が「いつでもごはんを炊いておきますよ!」と声をかけてくれた。何回もお替わりをしたのでよほどのごはん好きと思われたのかもしれない。彼もごはんが好きなのだろうか? いつかねぎとごはんについてじっくり話してみたいなぁ。
銀座 やまの辺
所在地 東京都中央区銀座8-4-21 保坂ビルB1
電話番号 03-3569-2520
[2015年10月末来訪]
北條芽以(ほうじょう めい)
神奈川県鎌倉市生まれ。情報誌編集者を経てフリーライター、料理本の編纂を行う。好きなのは炭水化物(特にごはん)とお肉の組み合わせ。お酒はあまり飲めない。「左手にごはん茶碗を!」
Column
北條芽以のLOVEレストラン
美味なるLOVEなひと皿を求めてレストランに通う日々。
著者が偏愛する、この季節、このお店のLOVEはいったい何? あなたの次のレストラン選びに参考になること間違いなし!
2015.11.30(月)
文・撮影=北條芽以