数百年前の風景が残された不思議な沼地跡
砂丘の頂上に登ると、あとは降りるだけ。ドイツ人女性は一気に両親のもとへと駆け下りていった。その下には、デッドフレイがあった。
デッドフレイは、約500年前とも900年前とも言われる遥か昔、気候の変動により、沼地が干上がった場所。木々は枯れたものの、砂漠という特殊な環境のため、腐らずに極度に乾燥し、そこが沼地だった当時の姿をそのまま残している。白くひび割れた粘土質の沼底と、周囲を囲む赤い砂漠、そして、まるで生きているかのようにたたずむ木々。この場所でしか見ることができない美景なのだ。雨季には、今でも水が溜まることがあるという。
ヴァレンチヌスさんの思惑通り、私たちが着いたときにはほとんど人はいなかった。「写真を撮るなら急いで! すぐに大勢の旅行者が来るから」と促されて写真を撮りまくった。先客はただひとり。どこかのテレビか雑誌だろうか、大きなビデオカメラのようなものを携えた男性が、熱心に撮影していた。
ほどなく、駐車場側からたくさんの旅行者が歩いてきた。入れ替わりに帰ろうとしたとき、砂丘の上にパラグライダーが舞った。「えっ、こんなところで?」。この日は、気球にパラグライダーと、2種類の手段で空を飛ぶ人々を見かけたことになる。
空からナミブ砂漠を見る醍醐味は、その形状にある。ナミブ砂漠の大砂丘は、星形をしているのだ。帰りの小型プロペラ機からはその姿がよく見えた。これは、砂丘に吹き付ける風の方向が一定でないことによって形成されたと考えられている。それが、中央に砂が集められて、高さを増すことにも繋がっているのだ。
デッドフレイを後にして車に戻り、木陰に移動して簡単な朝食を取ることに。いくつかの木製のイスとテーブルがあり、既に他の旅行者も来ていた。メニューはルーツと焼き菓子やスナック類とコーヒー。
ふと見ると、周りの木の枝には、ヒッチコックの映画『鳥』を思わせるくらいたくさんの小鳥たちが集まっている。かといって、悪名高きトンビのように、テーブルから食べ物をかすめるわけでもない。しばらくして、彼らが何を求めているかがわかった。ガイドが紅茶を入れるときにこぼしたわずかな水に、小鳥たちが群がった。喉が渇いているのだ。彼らがもっとも欲しいのは食べ物ではなく水だった!
2015.07.17(金)
文・撮影=たかせ藍沙