世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、週替わりで登板します。

 第90回は、芹澤和美さんが、沖縄の島々でラム酒に酔いしれます。

伊江島の地酒といえば、島産サトウキビを使ったラム酒

伊江島蒸留所では、島産ラム酒が着々と熟成中。搾ったジュースをそのまま醗酵、蒸留して作る贅沢なラム酒だ。

 たわわに実るサトウキビ、南国の樹々を揺らす爽やかな風、美しい海と、歴史に育まれた独特の音楽。ラム酒を心地よく飲むのに、こんな絶好のロケーションはないだろう。沖縄は、生産量こそ少ないが、カリブにも負けないおいしいラム酒が生まれる場所。沖縄の酒というとまず泡盛が思い浮かぶが、良質なサトウキビを使った銘酒が、離島で生まれている。

伊江島へは、本島の「美ら海水族館」の近くにある本部港からフェリーで30分。1日4~5往復の便があり、アクセスも便利だ。

 沖縄本島の本部港からフェリーでわずか30分。周囲約22キロの伊江島は、テッポウユリやハイビスカスなど、美しい花が咲く美しい島だ。遠浅のビーチや、断崖絶壁を眺める絶景、標高約172メートルの城山(ぐすくやま)など、自然も豊か。また、戦時中は地上戦が繰り広げられた場所でもあり、当時の様子を偲ばせる戦跡も残されている。

 この小さな島で生まれるのが、サトウキビの絞り汁だけで仕込み、じっくりと熟成させて造る「伊江島蒸留所」の「イエラム サンタマリア」だ。

左:「イエラム サンタマリア」はクリスタル(左)とゴールドの2種類。
右:島の居酒屋では、「イエラム サンタマリア」を使ったカクテルも飲める。

 ネーミングの由来は、島に咲き誇るテッポウユリ。ヨーロッパでは「聖母マリアの花」といわれているこのユリは、江戸時代に日本からヨーロッパに渡ったもので、昔は琉球百合と呼ばれていたのだそう。「イエラム サンタマリア」をグラスに注ぐと、咲き乱れるテッポウユリの花を思わせるような、甘い香りがふわ~っと広がる。

 世界にあるラム酒のほとんどは、糖蜜(サトウキビから砂糖を精製した後の残り)で造る「トラディショナル・ラム」だが、ここで造られるのは、サトウキビ果汁をそのまま醗酵させて造る「アグリコール・ラム」。原料となるサトウキビの搾り汁は品質の劣化が早く、長期保管が難しいことから、年に一度の収穫期にしか製造することができない。また、アグリコール・ラムは原料費もかかるため、生産量は、世界のラム生産量のわずか5パーセント未満。伊江島では、そんな貴重なラム酒に出会えるというわけだ。

左:T1と記された樽には、試行錯誤して蒸留した初仕込みの原酒が入っている。この処女作を瓶詰めした「イエラム サンタマリア Premium T1」は限定391本の販売。
右:こちらはスチールタンク。工場は元実験施設を再利用しているため、ちょっと近未来な雰囲気。

2015.06.16(火)
文・撮影=芹澤和美