世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、週替わりで登板します。

 第66回は、たくさんの文化が交じり合った戦後の沖縄の歴史を語り続けるバーやレストランを、芹澤和美さんが訪ね歩きます。

ジュラルミン製のステーキ皿が残る老舗の洋食店

 那覇やコザ(沖縄市)の路地裏を歩いていると、ウチナーと昭和とアメリカが入り混じったような、独特の雰囲気の中に迷い込むことがある。本州では感じることのない、1960~70年代の痕跡が色濃く残されたこのミクスカルチャーな世界こそ、私が沖縄に魅了される一番の理由だ。

アメリカ統治時代からある老舗でよく見かけるのは、古いジュークボックス(ジョージレストランにて撮影)。

 1989年公開の日本映画に、『Aサインデイズ』という作品がある。舞台は、まさに1960年代後半から70年代初頭の沖縄、ベトナム戦争と本土復帰へ向かう時代の中で翻弄されるロックミュージシャンたちの葛藤を描いたものだ。

 映画のタイトルにもなっている「Aサイン」というのは、本土復帰前の沖縄で、米軍公認の飲食店やホテルなどに与えられた営業許可証のこと。かつて「Aサイン」認可店として軍人で賑わった老舗のレストランを訪ねれば、映画そのものの、ノスタルジックな沖縄を感じることができる。

これがAサイン許可証。許可制度がなくなった後も、記念として大切に飾られている(ジョージレストランにて撮影)。

 那覇市の「ジョージレストラン」は、アメリカ統治時代に創業し、Aサインを得ていた老舗の洋食店。店内に大切に飾られているモノクロの写真は、Aサイン時代の店や従業員を写した貴重なものだ。その中の一枚、店の外観写真を見ると、木造家屋の周囲がコンクリート壁に囲われているのが分かる。これは、木造の建物にはAサインが下りなかったため、初代オーナーが工夫をしたもの。

「ジョージレストラン」の店内に飾られている大切な写真。往時の様子がうかがえる。

「建物を建て直すには莫大な時間とお金がかかりますからね。昔はこんな店もたくさんありました」と、2代目の宮城健さん。「Aサイン」の認可には、店はコンクリート造りで、トイレはタイル貼り、ペーパータオルまたは衛生的なタオルが備え付けられていなければならないなど、ルールがいくつもあったという。

 店には、沖縄の通貨が米ドルだったときのメニューも残されている。英語で書かれたメニュー名の横には、「テンダロインステーキ1.5ドル」、「スキヤキ80セント」、「ミソシルメシ付40セント」と、カタカナも併記。

左:「Misosiru w/Boiled Rice」は「ミソシルメシ付」。右:ステーキ皿は、米軍の戦闘機をスクラップにしたものを加工したジュラルミン合金製。レストランでは歴史の証として、大切に使い続けている。

ジョージレストラン
所在地 沖縄県那覇市辻2-1-9
電話番号 098-868-5036
営業時間 11:30~翌1:00
定休日 月曜日

2014.12.30(火)
文・撮影=芹澤和美