「西のベニス」と呼ばれた街を気ままに散策
ブルターニュ公領として栄えたナントは、ルネサンス期に優美な宮廷文化が花開いた場所。さらに、16~18世紀には三角貿易で富を得た富豪船主や商人たちの館が築かれ、「西のベニス」とも呼ばれた街は大いに華やいだ。いまもその名残をとどめる街並みは、歴史を守りつつ、デザイン先進都市としても開発が進んでいる。街には新旧のデザインが美しく共存していて、ふとしたところで「素敵!」と思わず足を止めてしまうものがたくさん。
パッサージュ・ポムレは、19世紀にできたショッピング・アーケード。明るいガラス張りの天井から差し込む光といい、古典的装飾が施された木製の階段といい、シックで格式のある雰囲気は、まるで古いフランス映画のセットのよう。実際、名作『シェルブールの雨傘』の回想シーンにも登場している。
旧市街の中央に堂々と立つのは、グララン劇場。ネオクラシック様式の建物が美しい、ナントが誇るオペラ座だ。現存の建物は1813年に再建されたものだが、その歴史は1788年にまでさかのぼる。
劇場とあわせて訪れたいのは、広場を挟んで向かいにある、19世紀末創業の老舗ブラッスリー、「ラ・シガール」。朝のカフェオレとクロワッサン、そしてフレッシュなシーフード盛りだくさんのディナーまで、アール・ヌーボーの装飾が施された店内で楽しむ食事の時間はとても優雅。
右:広場を挟んで劇場の向かいにある「ラ・シガール」はもはや観光スポットのひとつといえるほど有名。
歴史的な建物が多いナントで唯一の高層建物といえば、地上32階建てのブルターニュ・タワー。パリとニューヨークを結ぶエリアでは、もっとも高い建物なのだそう。最上階には展望テラスのあるカフェバーがあり、市内を一望することができる。眼下に広がるのは、アパルトマンが立ち並ぶ美しい街並み。深夜まで営業しているここは、夜景鑑賞スポットとしても人気がある。
1日の散策を終え日が暮れても、楽しみは終わらない。路地を歩けば、オレンジ色の街灯に石畳が照らされた、ロマンチックな光景に出会えるはず。ローカルに混ざって、テラス席でビールやワインをゆっくり傾けるのも楽しいひととき。旅を終えた頃にはきっと、この街が好きになっているはずだ。
芹澤和美 (せりざわ かずみ)
アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト http://www.serizawa.cn/
2015.04.29(水)
文・撮影=芹澤和美