星のや 軽井沢(前篇)

 温泉を備えた和の宿の魅力を追求する「旅館道」シリーズ。「和心地」な温泉旅館をコンセプトとする星野リゾートの「界」と、「現代を休む日」をコンセプトにした和のリゾート「星のや」の中から、今回は、大正から開かれた星野温泉の流れをくむ「星のや 軽井沢」で“軽井沢”という温泉地の魅力を味わい尽くします。

旅館道 その1
「この場所に身を置いて寛ぐこと自体が贅沢」

星野エリアを流れる湯川は、軽井沢の白糸の滝を源とする清らかなせせらぎ。

 東京から新幹線で約1時間、軽井沢の駅からシャトルバスに乗って中軽井沢を通り、星野エリアへ。道と並行するように流れる湯川に沿って、ハルニレテラス、ホテルブレストンコート、軽井沢高原教会、村民食堂、トンボの湯などの施設が点在する。緑がどんどん深くなり、湯川のせせらぎを通過して「星のや 軽井沢」に至る。星野リゾートの原点である星野温泉にある「山あいの理想郷」だ。

環境設計はオンサイト計画設計事務所代表の長谷川浩己氏、建築設計は建築家の東利恵氏。自然との触れ合いや調和が図られている。

 緑に囲まれた水辺に、離れの客室が立ち、自然と馴染んだその姿は集落のような落ち着きを見せる。チェックインの際には、レセプションで「やぐら」というどこかアジアの雰囲気が漂う打楽器の演奏とウェルカムドリンクで迎えられてから、専用車で客室のある建物に向かう。それは、まるで集落に入るための儀式のよう。

客室は、川に面した「水波の部屋」、山側にあって緑の眺めがきれいな「山路地の部屋」、静かな庭が落ち着く「庭路地の部屋」の3つがある。これは「山路地の部屋」で大きく明るい窓と高い天井が特徴。

 広々した客室の窓から眺める緑の風景、耳に入るのは川のせせらぎや鳥の鳴き声。新鮮な空気を循環させ光を取り入れる、風楼と呼ばれる小さな屋根が設けられた高い天井の客室は、快適な空気で満ちている。空気の自然循環で夏はエアコンなし、冬は地熱を利用した床暖房がふんわりと暖かい。まずは床座になったリビングでゆっくりとこの雰囲気を感じてみよう。

「ライブラリーラウンジ」では、棚に本が並び、お茶やコーヒーをいただきながらゆっくりできる。
メインダイニング「嘉助」は、朝・夕と食事を提供する。

 「星のや 軽井沢」の敷地内を散策するのは、集落を巡るよう。奥に佇む「メディテイションバス」は、源泉掛け流しの温泉を利用した温浴施設でスパも入る。棚田を眺める「集いの館」には、寝そべるような広いソファで読書をしたりお茶をしたりと思い思いに過ごすことのできる「ライブラリーラウンジ」や、階段状のドラマティックな空間を持つメインダイニングの日本料理「嘉助」が入る。

散策の途中でふっと川の流れに目が止まる。ここは自然の中にある宿なのだ。

 敷地の中を歩いていると、山あいの空気の清らかさ、水のせせらぎなど自然にあるものに気持ちが浄化されるようで、この場所に身を置いての寛ぎこそ贅沢だと気づかされる。

2015.01.10(土)
文=小野アムスデン道子
撮影=鈴木七絵