伝統的な料理と手作りの粟酒で乾杯!

 集落の見学ツアーには、ランチも含まれている。ある日のメニューは、シダの和え物やタニシなどの前菜、生姜と蒸した紫芋、野菜の煮込み、淡水魚の燻製、山椒とカボチャのスープなどのほか、メインディッシュにポークスペアリブ(素材はもちろん、さきほどの罠にかかった山豚)またはチキン料理。どれもトラディショナルなタイヤル族の料理だ。

伝統的な雰囲気の中にも、テーブルウエアや盛り付けが洗練されているのは、オーストラリアの大学で観光学やデザインを学んだカリーのアイデア。

 料理に使う野菜はおいしいだけでなく、すべて無農薬。もともと狩猟民族だったタイヤル族には農耕の知識がなく、試行錯誤しながら今の畑を作ったのだという。「かつて、多くのタイヤル族が生活のため自分の土地を人に貸していた。そして、畑になったその土地は、農薬で使い物にならなくなってしまった。でも、山は食糧を供給してくれる大切な場だから、自分たちで守らなければならない」。そんなカリーの話を聞きながら、粟酒を酌み交わす。ここでは、ゲストに粟酒をふるまうだけでなく、スタッフも一緒に乾杯し、タイヤル族のエピソードを語るのが、歓迎のスタイルなのだ。

バチバチと肉が焼かれる炭火バーベキューの香りに誘われ、オープンエアーのキッチンを覗くと、そこには、たくさんの採れたて野菜が。

 粟酒は、微炭酸の白ワインのような、マッコリのような、口当たりよさ。そして、街中で売っているものとは比べ物にならないほど美味しい。「粟酒のアルコール分は14%。上澄みは魚に、上澄み以外は肉に合うよ。飲み分けるところがワインみたいでしょ」と勧められるまま飲んでいるうちに、私もほろ酔いに。

甘みが強く飲みやすいのが特徴の粟酒。手作りのため大量生産できず、とても貴重。

 ランチタイムはときに4時間に及ぶことも。伝統料理に舌鼓を打ち、粟酒を酌み交わし、住民たちの音楽や踊り、ゲームなどに興じていると、あっという間に時間がたってしまう。ゲストにとっては、こうしてタイヤル族の人々と乾杯し、彼らの歴史や暮らしのエピソードを聞くことが、何よりの楽しみとなる。

ログハウス風の食堂。風や太陽の動きなどを計算したタイヤル族伝統の茅葺き小屋に、電灯をつけてモダンにアレンジ。

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2014.09.09(火)
文・撮影=芹澤和美
コーディネーション=Lily Yi