“爽やか、魅力的”に描かれる自衛隊
これを見ていて、ふと思い出したのがNetflixのドラマ『First Love 初恋』でした。満島ひかりと佐藤健が演じるあの美しい物語の中で、主人公の並木晴道は高校卒業後に航空自衛隊に入隊し、戦闘機のパイロットを目指します。
大切な人を守りたいという純粋な憧れ、ブルーインパルスのかっこよさ。ドラマはそれを、爽やかで前向きな「夢への挑戦」としてロマンチックに描いていました。
舞台となった北海道では基地や駐屯地が身近にあり、地元の人々にとって自衛隊は主要な安定雇用先の一つでもあります。だからこそ、作品の中では地方の若者がごく自然に選ぶ「身近で手堅い就職先」としての強いリアリティを帯びていました。
私たちが目にするポップカルチャーや日常の風景の中で、軍事組織はしばしば青春や自己実現という、耳当たりのいい魅力的な選択肢として差し出されます。
けれど、劇中の晴道はやがて人道復興支援の名目でイラクへと派遣され、帰国後は隊の命令によってカウンセリングを受けることになります。爽やかなドラマの主人公や災害救助といった頼もしいイメージの陰で、それが武力の行使を前提とした実力組織であるという冷厳な事実は、本人の自覚すら曖昧な日常の穏やかさの中にそっと覆い隠されていく。
戦争への動員というのは、ある日突然、軍靴の足音とともにやってくるのではないのだと思います。日常の延長線上で、爽やかな憧れや「生活のため」、あるいは「人助け」という善意の隙間を突いて、実に“ぬるっ”と、ごく自然に私たちの生活の中へ滑り込んでくる。
若者が戦争の当事者にされる危機感
映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が塚本晋也監督によって「いま」作られ、「いま」公開された意味も、まさに私たちの足元にあるそうした危機への警鐘にほかなりません。
塚本監督自身、インタビューで本作に込めた切実な思いとして、現代の若者たちが無自覚なまま戦争の当事者にされていくことへの強い危機感を語っています。身近な選択肢や憧れから始まり、気づいたときには引き返すことのできない組織の歯車に組み込まれていく。この構造は、決して遠い海の向こうだけの話ではないのです。
防衛費の増額や関連法の改正が進み、有事への備えが着々と現実味を帯びていくいまの日本において、あの爽やかな笑顔の青年たちが、いつか誰かの命を奪う、あるいは奪われる当事者になり得るという現実は、決してフィクションではなくなりつつあります。
