ほとんど布団をかぶって歌っているような暑さ!

山口安紀子(やまぐちあきこ)
神戸女学院大学人間科学部卒業。2003年よりイタリア、ミラノに留学、ヴェルディ音楽院声楽科卒、同大学院を首席で修了。イタリア・ブドリオ歌劇場アンセルモ・コルツァーニ国際コンクール第2位。多数の国際コンクールで入賞を果たす。10年、ボローニャで『蝶々夫人』に初出演し、タイトルロールを務める。イタリア、ドイツをはじめ欧州各地で活躍中。

――皆さんそれぞれに、思い出があるのですね。ラストまでパワフルに歌わなければならず、声楽的には苛酷といわれる役ですが、公演前には特別な訓練をされるのですか?

3人そろって 所作ですね。

佐藤 着物での美しい所作を勉強するために、日本舞踊の立花寶山先生が、手とり足とり教えてくださっています。

――動きに気を配ることで、歌の集中力が邪魔されたりはしないんですか?

佐藤 歌とぴったりなんですよ。逆にやりやすかったり。

山口 一生懸命やっていたとしても、そういう風に見えないときに「なぜそう見えないのか」という答えを、先生が必ず見せてくださるんです。直していただいた後は、必ずよくなってますね。

プッチーニが最も愛したヒロイン、蝶々さん。15歳から18歳までの濃厚な人生が描かれている。

――蝶々さんの衣裳は着物ですが、かなり厚着ですよね。カツラも被るし……それでも歌手のみなさんは、しなやかに動いて歌われます。

佐藤 実際は大変で……(笑)。

清水 特に今の季節は蒸しますから、着物は薄手の一重になりますが、蝶々さんは振袖で出てきて、結婚式では打ち掛けも羽織りますので……ほとんど布団をかぶって歌っているようなものです。

山口 一番「暑い」オペラですよね……(笑)。

――最近の演出では、キティちゃんのTシャツを着たギャル風の蝶々さんなどもいるようですが。

佐藤 演出家のコンセプトが明確で、理解可能なものなら現代演出も面白いとは思いますが。

清水 でもやっぱり、昔ながらのものがいいわよね……(笑)。藤原歌劇団の粟國安彦さんの演出は、粟國さんが亡くなった後も引き継がれている決定版で、これを守り続けていく伝統は素晴らしいと思います。

2014.06.25(水)
文=小田島久恵
撮影=鈴木七絵