美しすぎる汝窯の青磁

 一方、宋・元代に磁器の生産を主導したのは宮廷だ。白磁を生産した定窯、青磁を生産した汝窯など、皇帝の命によって磁器を焼造したと考えられる窯を「官窯」と呼び、徹底した管理の下、厳密な規格どおりの素材や形状の器が作られたと考えられてきた。その実態は明らかになっていない部分も多いが、いずれにせよ、際立って優れた作行きの磁器がこの時代に数多く作られている。

 中でもその完璧さで名を馳せるのが、汝窯の青磁だ。伝世するものは世界にわずか70点前後、うち、台北の國立故宮博物院は21点を所蔵する。南宋時代にはすでに「近ごろもっとも得難い」ものとされ、緻密な胎土を端正に形づくり、「雨過天青雲破処(うかてんせいくもやぶれるところ)」=天青色(雨の降り止んだ雲の切れ間にのぞく空の青色)、といわれる澄んだ青色が特徴の、この上なく優美な器だ。

《青磁輪花碗》 汝窯 北宋時代・11~12世紀 台北 國立故宮博物院蔵

 中国美術史に燦然と輝く宋元時代の書画陶磁の優品を、まとめて日本で見ることのできる貴重な機会を見逃さないでほしい。

 そして余力があればぜひ東博東洋館第5室で開催中の、「日本人が愛した官窯青磁」にも立ち寄っておこう。こちらは日本所蔵の汝窯青磁の盤や、国宝の下蕪瓶など、東京国立博物館の所蔵品や常盤山文庫の所蔵品などを集め、日本人が宋時代の官窯の器をどのように評価してきたかを考える、意欲的な特集展示。『枕草子』の時代から日本人が愛し、憧れてきた青磁について、特別展と合わせて、より立体的に理解を広げてくれるはずだ。

青磁輪花鉢 中国・南宋官窯 南宋時代・12~13世紀 横河民輔氏寄贈 東京国立博物館蔵
重要文化財 青磁輪花碗 銘 馬蝗絆
中国・龍泉窯 南宋時代・13世紀 三井高大氏寄贈 東京国立博物館蔵
8月31日まで展示
青磁鳳凰耳瓶
中国・龍泉窯 南宋~元時代・13世紀 松永安左エ門氏寄贈
展示期間:9月2日~10月13日

特別展『台北 國立故宮博物院─ 神品至宝─』
URL http://www.taipei2014.jp/
会場 東京国立博物館 平成館、本館特別5室
会期 2014年6月24日(火)~9月15日(月・祝) 
料金 一般1,600円(税込)ほか
電話番号 03-5777-8600 (ハローダイヤル)
※九州国立博物館(10月7日~11月30日) 電話番号 050-5542-8600 (ハローダイヤル)

東京国立博物館 東洋館
料金 一般620円(税込)ほか
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
URL http://www.tnm.jp/

橋本麻里

橋本麻里 (はしもと まり)
ライター/エディター。1972年生まれ。明治学院大学非常勤講師。近著に『変り兜 戦国のCOOL DESIGN』(新潮社)、共著に『チェーザレ・ボルジアを知っていますか?』(講談社)、『恋する春画』(新潮社)など。

Column

橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」

古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。

2014.06.28(土)
文=橋本麻里