この記事の連載
漫画家・雁須磨子さんインタビュー
『起承転転』第1話
同じ50代でも来し方が違えば…

――50代の物語でありつつ、葉子のアパートの大家の息子である快晴くんなどの若者が登場するのはどういった役割から?
雁 快晴くんの視点というより、葉子が違う世代を見る視点が必要ということですかね。
――彼のお母さんはちょっと問題を抱えているようですし、まだ全貌が明らかでないお兄さんの存在も気になります。
雁 大家さんの一家に葉子がどう関わっていくかのドラマはこれから展開させていくつもりです。
――葉子が単発バイトで一緒になる淡輪さんもまだ謎ですね。今のところは同い年のバイトの達人というイメージ。
雁 淡輪さんはわりと私の得意な分野のキャラクターなので、うまくやりたいです。葉子と一緒に住んでいた女の人とかもこれから出す予定です。同年代の何人かをメインっぽく描いていけたらいいなと思います。同じ50代でも来し方が違えば、悲喜こもごもの状況もそれぞれ違うわけで。
――葉子の弟の穂波くんも同世代と言っていいと思いますが、きょうだいでもまったく違いますしね。
雁 読者の方に穂波が気に入ってもらえているようで、うれしいんです。穂波はいつもハリセンを持って後ろに立ってる人みたいな感じで。葉子を正直に怒ってくれる、よくできた弟ですね。私は辛いことを描きがちなので、50代以降に訪れる楽しさみたいなものも提示していけたらいいなと思っています。
人生を「店じまい」する楽しさ

――50代と40代との違いをご自身ではどうとらえていますか?
雁 40代のときは「私はもう成長できないかも」っていう悩みのシーズンですね。もがいたり、新しい人と出会って刺激を受けたり、希望を持ってがんばりながらも。それが50代になると突き抜けて「そりゃそうだよ、もうたいていのことやったわ」みたいな感じになる。50代というとやっぱり人生の折り返しを意識するし、店じまいを考え出すみたいな気持ちが少しありますね。それは暗い感じではなくて、これまでバーッと広げてきたものをパタンパタンとちょっとずつたたんでいくような。
――50代ならではの楽しさはどんなものだと思いますか?
雁 楽しいというか、楽になったかな。あまり多くを欲しがらなくなりました。『あした死ぬには、』でちょっと年上のキャラクターにこういうセリフを言わせていて……それが本当になったなと思っていたんですけど。自然にたくさんのものはいらなくなって、持っていなくても辛くない。楽になった部分は多いと思います。ただ漫画家としてはそういうのもあまり良くないかなと思って、ときには自分から欲望の匂いがする方にわざと寄っていったりして(笑)。
――店じまいって「きれいに片付ける」イメージもありますね。
雁 はい。店じまいってちょっと楽しいですよ。「ものを減らす」だけとも限らなくて。たとえば「こういうもの買っちゃうってどうなの?」って思ってたものを買ってみたりとか。
――心残りをなくすみたいな感じですかね?
雁 葉子でいうと、地元に帰る選択もそれに当たるんじゃないかと。別に福岡に帰っても帰らなくてもどっちでもいいのに帰ってきたというのが、ひとつ自分を諦めたことなんだけど、新しいことでもあり、得たものでもある。失って得たみたいな感じで。失うものの方が大きかったとしても、得たものが小さくても、うれしいことっていっぱいあるんじゃないかなと思って。
2025.10.19(日)
文=粟生こずえ