この相互関税の発表により、株式市場は大きく下落し、安全資産とされる米国債までもが急落した。こうした金融市場の混乱を受けてのことと思われるが、四月九日、トランプ政権は、二日に発表した相互関税を九○日間停止することとした。しかし、報復関税措置を行った中国に対しては、関税を一四五%にまで引き上げた。この九○日の猶予期間の間に、各国はアメリカと関税を巡って交渉を行うこととなった。

 五月八日、トランプ政権は、イギリスとの貿易協定の締結に合意した。五月一二日には、アメリカと中国は、一二五%まで引き上げた相互関税率を三四%に戻した上で、そのうちの二四%の執行を九〇日間停止し、追加関税を一〇%とすることで合意した。

 五月二八日、アメリカの国際貿易裁判所は、貿易を規制する独占的な権限は憲法により議会に与えているなどとして、トランプ大統領が課した追加関税の大部分の差し止めを命じた。ただし、翌日、連邦巡回控訴裁判所(高裁)は国際貿易裁判所の判断を一時的に停止させる判断を下した。

 本書は、ここまでの経過を見ながら、書かれている。

元外務審議官の見解

 本論に入る前に、一つの参照点として、元外務審議官の田中均に対するインタビュー記事を見ておこう。(1)なお、このインタビューは、二〇二五年四月二四日に行なわれている。

 田中は、一九八五年から一九八七年に北米局北米二課長として、二〇〇〇年から二〇〇一年には経済局長として日米経済摩擦問題を担当した経験をもち、二〇〇一年から二〇〇二年にはアジア大洋州局長を務めた。

 この経歴からも明らかなように、田中は、日本の対米外交に精通した有識者である。その田中が、トランプ・ショックをどう見ているのか。

 インタビューの冒頭、「トランプ政権のやり方をどう見ますか」と問われた田中は、「通常の感覚で言えば『言葉を失う』」と答えている。彼も、トランプ・ショックに動揺を隠せないでいる。

2025.08.07(木)